第15話 王宮へ

王宮から指定された日、馬車に乗って王宮へと向かう。

貴族令嬢が王宮に呼ばれた場合は侍女を連れて行ってもいいのだけど、

そうするとアロルドに話しかけにくくなってしまう。


一人で王宮に向かおうとしてる私を心配して、

何度も連れて行って欲しいと言うカミラをなだめて馬車に乗る。

公爵家から少し離れた頃になって、隣に座るアロルドに話しかけた。


「陛下はどういう手で来ると思う?」


「多分、無かったことにするんじゃないかな」


「やっぱりそうよね……どうしようか」


あの陛下では正論で話しても無理だと思う。

国法を曲げてでも自分のしたいようにしている陛下だ。

たとえ、ベッティル様が悪くても無視して婚約を続けさせようとする気がした。

臣下の、しかも令嬢の言うことなどどうでもいいと思ってるだろうから。


「いざとなれば、俺がエルヴィラを連れて逃げるよ」


「え?」


「何があってもベッティル王子なんかと結婚させない。

 俺がエルヴィラを守る……だから、そんなに心配するな。

 陛下には言いたいことを言ってこい。俺はずっと隣にいるよ」


「ルド……ありがとう」


アロルドが腕をのばして、私の肩を抱くように支えてくれる。

布越しにアロルドの体温がじわりと伝わってきた。

その手が馬車の揺れから守るだけじゃなく、心を守ってくれている気がした。


アロルドがそばにいる。

もし陛下が認めてくれなかったら、一緒に逃げてくれる。

そう思ったら怖いものがなくなった。


大丈夫、まだ戦える。

お母様から受け継いだものを、簡単に渡したりはしない。




謁見室に通されると、そこには陛下と宰相、そしてなぜかお父様がいた。

その代わり、いると思っていたベッティル様とイザベラは見当たらない。

疑問に思ったけれど、それを顔には出さず陛下へと礼をする。


「よく来たな。エルヴィラ嬢。

 ベッティルから話は聞いた。

 どうやらエルヴィラ嬢が嫌がらせをしていたというのは誤解だったようだな。

 ベッティルには謹慎するように申し付けた」


あぁ、ベッティル様は謹慎させられているからこの場にいないのか。

それは納得したけれど、婚約はどうするんだろう。

こんなことで反省するような人だとは思っていないし、

むしろ全部私のせいだとよけいに嫌われただろう。


「それでな、ベッティルからエルヴィラ嬢のことも聞いたが、

 学園に入ってから一度も交流していないそうだな。なぜだ?」


ベッティル様との交流?それは婚約者としての?

なぜだと申しましても?


「陛下、私は幼い時に婚約が決まりましたが、

 ベッティル様と交流したのは一度きり。顔合わせの時だけです」


「はぁ?」


「王宮に呼ばれ、定期的にお茶会で交流する予定でしたが、

 ベッティル様は初回の時に挨拶しただけで帰られ、

 その後は一度もお会いできませんでした。

 それでも一年間は王宮からの呼び出しに応じていましたが、

 ベッティル様からは欠席する伝言もなく放置され、

 そのうち呼び出しも無くなり……」


「これはまた。ずいぶんと嫌われたものだな」


呆れたように言うけれど、そうしたのは陛下だ。

どうやらベッティル様は母親である第二妃から言い聞かされていたらしい。

「あなたには運命の女性がいるはず!王命の婚約なんて無視していいのよ」と。


王命で陛下の妃になってしまった第二妃は、

自分の息子には素敵な恋愛をしてほしかったようだ。

こんなことを言えば不敬になるから言えないけれど。


「そこでだ、これ以上無理に婚約を続けることはない。

 ベッティルとの婚約は解消とする」


「…かしこまりました」


意外とあっさり婚約は解消された。

無理やりにでも婚約を続けさせるつもりなんだと思っていたのに。


「それとな。やはりエルヴィラ嬢に公爵家をまかせるのはやめようと思う」


「は?」


「エルヴィラ嬢には父親がいるのだし、このまま任せたほうがいいだろう?

 令嬢には無理な仕事だ。なぁ?そう思うだろう?」


「ええ、陛下のおっしゃる通りです。

 こういう仕事は父親に任せるのが普通でしょう」


「うむ」


陛下の言葉に、お父様が笑顔で答えている。

謁見室にお父様がいたのは、これが理由か。


隣にいるアロルドが視線で殺せそうなほどお父様をにらんでいる。

見えていないから意味はないだろうけど、何かを感じたのか寒そうに腕をさすった。


「エルヴィラ嬢も、それでよいな?」


「それは、当主を変更するということでしょうか?」


「ん?変更も何も、今の公爵はエミールだろう?」


「いいえ。今現在も、アーンフェ公爵家の当主は私です」


「そんなわけないだろう?なぁ、宰相?」


「ええ。エミール・アーンフェ様が公爵では?」


宰相も首をかしげている。

本来なら陛下の補佐として宰相がしっかりしてもらわなければいけないのだが、

宰相は前宰相の息子で、宰相補佐になってすぐに宰相が倒れてしまった。

そのせいで、仕事も覚えていないような状況で継いでしまったらしい。


「他の公爵家と違い、アーンフェ公爵家の当主には年齢制限がありません。

 当主変更の儀はお母様が亡くなる前に行われていました。

 これは前国王陛下と前宰相殿もお認めになっていたことです。

 ですので、お父様が当主代理になる前に私は当主となっていました」


「そんな馬鹿な?エルヴィラ嬢が何歳の時だ?」


「四歳になる直前でした」


私がそんな幼いころに当主になったのには理由がある。

お母様がお父様の裏切りを知り、もう生きていたくないと絶望してしまったから。

お母様が死んでもいいようにと当主変更の儀を行ったそうだ。

幼い私はよくわかっていない状況で当主になっている。

それでも、公爵家の当主になったことには変わらない。


「四歳にもならない公爵など認められるわけがないだろう!」



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