104.トントン拍子とはこの事
セルキーの里でエリュニエルを発見した俺は、拠点に戻って『ネステルの手記』を読んでいた。
そこには、世界樹のことはもちろん世界中の様々な植物について細かく書かれていた。まぁ、俺は植物にはそこまで興味ないし世界樹の手入れ方法さえわかればそれで良しだ。
『世界樹とは、天と地を繋ぎ生者の国と死者の楽園を繋ぐ
彼等は大樹の姿をしているが、神の国の住人だ。しかし、その声が聞こえるのはハイエルフだけだろう。
天空の世界樹は随分と呑気なヤツで、時々起こしてやらねばあっという間に葉を黄色く変色させてしまう。
葉の変色程度では枯れることはないが、やはり見た目が悪くなるので起こしたほうが良いだろう。
世界樹を起こす為に必要なのは「起床薬」だ。以下に精製方法を記載する』
なるほど、つまり薬を作って持っていけば良いんだな?材料は…うん、手持ちの素材で作れそうだな。
手記に記載されていた通りに薬を作っていく。
まずは、ククナッツを割ってククナッツ水とコプラに分ける。コプラってのは、ククナッツの内側にある白い部分の事だ。
まずはコプラを細かく砕く。次にニガヨモギの葉とニガウリのワタを細かく切って、すり潰す。ククナッツ水に全部入れて混ぜながら弱火でじっくりと温めていく。ここで沸騰させてしまったら失敗になるので、火加減は慎重に。
しばらく混ぜていると、やがてトロリとしてくる。そしたら火を止めてフェアリーの蜜と朝霞の露を加えて混ぜる。
粗熱が取れたらビンに詰めて完成だ。
鑑定してみると『起床薬』と表示されていたのでホッとする。素材を見た時はどうなることかと思ったぜ…。
薬を持って、早速天空の島へ向かう。
「おーい、ナサニエルー」
世界樹のある建物へ入り、ナサニエルの姿を探す。すると、上の方から声が聞こえてきた。
「おや、シオン様ではありませんか。今日はどのようなご用件で?」
フワリと目の前に降り立ったナサニエルは、麦わら帽子にツナギ姿という天の国の偉い人とは到底思えない格好だった。
「あー、一応聞くが…何してたんだ?」
「あぁ、黄変した葉の様子を見ていたのですよ」
「なるほど、あれからどうだ?」
「相変わらずですね。特に変わりはありません」
なるほど、酷くなっている様子もないらしいな。ナサニエルと一緒に、世界樹の根元に行くと薬瓶を取り出す。ちなみに、サイズは一升瓶くらいだ。
「シオン様、それは…?」
「世界樹を叩き起こす薬品」
「は?」
「そーれ、起きろー!」
薬瓶の蓋を取って、瓶の口を勢いよく根元にぶっ刺す。見た目は観葉植物に刺してある栄養剤みたいになっている。
刺してすぐは何の反応もなかったが、しばらくすると中身がシュワシュワと音を立てて地面へ吸い込まれていくのが見えた。
「ちょっ、シオン様!?これ大丈夫なんですか?!すごい臭いしてますけどっ!」
…そう、この薬は物凄い臭いがするのだ。甘いような苦いような…何とも言えない臭いだ。この薬品を作った部屋はスレアが涙目になりながら換気してくれてた。ごめんよ、スレア。
やがて瓶の中身がなくなる頃、世界樹の纏う雰囲気が変わるのを感じた。
今までは、ただソコに在るだけだったのが生物のような気配になったのだ。
『ふわぁぁぁぁ』
葉擦れの音と共に、野太い声が聴こえてきた。
『むぅ、誰じゃぁ〜。儂を起したのは〜』
周囲にはナサニエルと俺しか居ない。と、すると―
「世界樹…か?」
『おんやぁ〜?懐かしい気配がすると思うたが、お主はハイエルフかの〜』
「あ、あぁ。ボクはハイエルフで冒険者のシオンだ」
『ほぉ〜、ハイエルフの冒険者とは珍しいの〜。それにしても、わざわざ儂を起こしたとは、何かあったんかの〜』
「あぁ、それなんだが…」
俺は、世界樹に葉が黄変してしまっている事と庭師が出奔してしまい手入れをする者が居ない事、黄変を見た天族が慌てて俺に依頼をしてきた事を話した。
『な〜るほどの〜。どぉれ、少し枝を動かすかの〜』
世界樹がそういうと、ズズズズッと響くような音と共に枝がワサワサと動き出した。木の枝が動く姿なんて初めて見るが、イソギンチャクみたいだな。何ていうか…うん、これ以上はやめておこう。
『これでよかろ〜。百年もすれば元通りじゃろ〜』
「結構かかるんだな」
『儂は長生きじゃからの〜気長なのじゃよ〜「木」だけにの〜』
ここは笑うべきか?ん?笑ってやろうか?
『アヤツには大ウケだったんじゃがの〜』
あぁ、ネステルの事か。そういや、ネステルはどうしてお前の世話を辞めたんだ?
『あ〜オナゴを探しに行ったのじゃよ〜』
「はぁ?!」
『そろそろ番を探さねばと言っておったからの〜』
嫁探しに行ったのかよ!
『そうじゃ〜、そろそろどうなったか知りたいの〜。お主、ハイエルフの里へ行ってネステルを連れてきてくれんかの〜』
「えっ、それは構わないが…ハイエルフの里なんて何処にあるのか知らないぞ?」
『それなら儂が知っておるぞ〜』
…マジか。
『それとな〜エリュ坊も連れてきてはくれんかの〜』
「エリュ坊…エリュニエルか?」
連れてくるのはいいけど…なんで?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます