102.偶然の出会い

「いやー、どうすっかな」


俺は今、海辺で途方に暮れている。


「これは流石に開発へクレーム入れても許されるよな?!」


いや、自分の環境が特殊だから仕方ないのはわかる。しかし、出鼻を挫かれてしまうと文句の1つも言いたくなるのだ。


砂浜にゴロンと寝転ぶ。やることは色々あるんだが、急に予定が空いてしまうと何から手を付けようか悩んでしまう。あ〜、モヤモヤするぅ!


「はぇぇ〜、そこに居るのはシオンっちゃ?」


うん?この声と独特の口調は…


「やっぱりシオンっちゃ!こんな場所で何してるっちゃ?」

「おぉ、こんな所で会うなんて奇遇だな。見ての通り暇してたんだよ。そっちは?」

「アチシはお散歩っちゃ。…そうだ!暇ならアチシ達の里へ来るっちゃ?歓迎するっちゃよ〜」


ふむ、セルキーの里か。そういや、誘われていたっけ…折角だし行ってみるのも良いな


「ついてくるっちゃ!」


セルキー娘の後に続いて海へ潜る。加護のお陰で潜水用アイテムが必要ないとはいえ、泳ぐスピードは至って普通だ。海に潜る人って何使ってたっけ…?


あ、そうか思い出した。足ヒレだ!それから手に持つスクリューみたいなの使ってるのをテレビで見た気がするな。そういった道具があったほうが海中探索も楽になりそうだなぁ。


しかし、今は海中だ。道具のことは置いといて、魔法でどうにか出来ないものか。試しに風魔法を手のひらに出してみたが、ブクブクとした泡が出るだけだ。勢いよく出せばやれそうだが、もっとこう…スイーッといかないものか。


スクリューみたいに、水を後ろへ押し流せばいけないか?イメージするのは、足から水流が生まれるような魔法。風魔法だと上手くいかないから、水魔法でやってみる。


すると―


「おぉ!速い、速いぞ!」


足先に水魔法で後ろに向って流れる水流を生み出す。すると、前へ向って身体がスイーッと進み始めた。水流に強弱をつければスピード調整も可能だ。


初めは真っすぐしか進めなかったが、コツを掴むと自由自在に泳げるようになった。


「シオンすごいっちゃ!セルキーより速いヒトは初めてっちゃ!!」


それまでは俺に合わせてゆっくり泳いでくれてたセルキー娘も、今や俺に置いていかれそうになっていた。仲間用に道具は作るが、自分はこの魔法かあれば良いや。名前は…『ジェットスクリュー』とでも付けよう。


しばらく泳ぐと、岩の壁が見えてきた。どこかの島の岸壁のようだ。セルキー娘は岩の間にある穴へ入っていった。ふむふむ、海藻や岩で入口を隠しているんだな。もしかしたら、セルキーと一緒じゃなきゃ入れないのかもしれない。


しばらく穴を進み、水面から顔を出すと周りをシダ植物みたいなもので囲まれた森のような場所に出た。


セルキーも地上で生活してるんだな。


「お日様の光に当たらないと病気になるっちゃ。ジジババより上の世代は海の中で暮らしてるっちゃけど、アチシら若いセルキーはこっちで過ごしてるっちゃ」

「へぇ〜」


セルキー達の住処は、大きな麻の葉の屋根に竹で編まれた壁と、入り口にも麻の葉がカーテンのように付けられたものだ。東南アジアとか南国を思い起こさせるな。


「ありゃ、リュスペよ。お客さんかえ?」

「リュタプばっちゃ!前に話してた冒険者のシオンだっちゃ!暇してたから連れてきたっちゃよ」

「ありゃ〜、リュスペが世話んなったな」

「ほぇ〜、お前さんが海神様からご加護を頂いた冒険者っぺか〜」

「うぺぺ〜、こりゃ珍しいお客さんっぺな〜」


里に足を踏み入れると、アチコチからセルキーがやってきた。セルキーの大人はオレの胸より下くらいの身長で、子ども達はその半分くらいだ。見た限り20〜30人ほど居そうだが他にはいないのだろうか?


「ここはセルキーの集落の一つだっぺ」

「んだー。オラ達の仲間はアチコチの海に住んどるだー」

「ジジババは海中に棲むだでよ」

「ワシらの仲間がどれほどおるかはワシらにもわからん」

「まぁ、そんな細かいこと気にするヤツはおらんちゃよ」


そ、そうなのか。何というか…セルキーというのは随分と大らかなんだな。


「はぇぇ?なにやら不思議な気配がするのぇ〜」


ワチャワチャとセルキーに囲まれていると、奥の方から一際大きなセルキーがやってきた。他のセルキーと違い、銀色の毛皮に青色の石に革紐を通しただけのネックレスを付けている。


「ばっちゃ!」


セルキー娘のリュスペが大きなセルキーに駆け寄っていく。他のセルキーが頭を下げているから、もしかして偉い人なのか?


「はぇぇ、ワシはここの長老をしとるんぇ〜。お前さん、懐に何か持っとるのかぇ〜。何やら強い力を感じるのぇ〜」


おぉ、セルキーの長老なのか!どうもお邪魔してます…って、懐?イベントリの事かな。特別なものは入ってないと思うんだがなぁ。


「あぁ、これかな?…って、えぇぇぇ?!」


心当たりの品をイベントリから取り出して思わず声を出してしまった。


だって、ピカピカと光り輝いていたんだ。

『エリュニエルの羽根』が。


貰ったときは普通だったのに!


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