101.海底二万マリン
「うわぁ…」
「げぇぇ…」
「ひょぉ…」
「あらま…」
「にゃぁ…」
ワールドクエストでアクローザの海に潜った俺達の足元は一面の汚泥で埋め尽くされていた。
「これは確かに掃除が必要だな」
海の神殿で見た海底はとても美しかったのに、さほど離れていないこの場所が泥とゴミで埋め尽くされているのはたしかに異常だ。ワールドクエストに参加しているプレイヤー達がせっせと泥とゴミを拾っているのが見えた。
「さてと、適当に分かれてゴミ拾いするか」
「そうね〜、人も多いし」
「ウチはあっちの方行ってみるにゃ〜」
「私はあっちへ行きますね」
「パイセン、こっちが空いてそうッス」
「おっけ」
カゲと一緒に人の少ない場所を選んでゴミ拾いを開始する。これはミニゲームのようになっていて、泥の上にある小さな矢印に触れると専用のゲーム画面に推移し、スコップを操作して一定時間内にゴミを拾い集めてポイントを取得する…というものだ。
しかし―
「パイセン、ここの矢印見えるッスか?」
「いや、全然」
そう。俺の目には矢印なんて一つも見えていないのだ。これは困ったぞ…
「とりあえず、オレ達でやるッス。パイセンは遊んでていいッスよ」
「おー…」
遊んで良いと言われてもなぁ。
ミニゲームモードに入ると、プレイヤーは専用画面しか見えなくなる。傍から見ると泥の上で何かを拾う仕草をしているが、その手には何もないからちょっと笑える光景が広がっているのだ。
そんな彼等の様子を眺めつつ、ふと足元に広がる泥をつついてみた。
つん
プルンッ
「おぉ?」
つんつん
プルルン
「なにこれ面白い」
つんっ つんつんっ
プルン プルルンッ
つつくとプルプルと震えるのが面白い。これは泥というよりスライムか何かみたいだな。
「…スライム?」
ふととある可能性に思い至った。なのでコソッとナヴィを召喚する。
「なぁ、この中に弱点はあるか?」
『弱点?ちょっとまってねー』
ナヴィは泥を見つめてうーんと考え込むと、クルクルと周りを見渡した。そして―
『あったよ!こっち〜』
ビンゴ!やっぱりそうだったか。
ナヴィの案内で『弱点』まで移動する。そこには他とは違うモノが埋まっているのが見えた。
「やっぱり…この泥は巨大なスライムだな」
そう。俺が考えたのは泥とゴミを含んだスライムなんじゃないかって事だ。つつくとプルプルしていたのはスライムだからだな。
スライムは身体の何処かに『
スライム=雑魚敵というイメージを逆手に取った設定がしてあるのだ。なので、付いたあだ名が『初見殺し』
俺の場合はナヴィがいるから問題なかったけどね。
「それにしてもデカいな」
海底を埋め尽くすスライムはかなりの巨体のようだ。もしかしたら合体したか海水で膨らんだのかもしれないな。どちらにせよ、ここにある弱点を潰せば泥は消えるはず。
しかし、ここは海の中。遠隔武器は威力がかなり下がってしまうので使えないのだ。仕方ないのでめったに使わない短剣を取り出す。まずは魔核の無い部分にナイフを刺してみる…が
プヨンッ
「うわ、弾かれるな」
弾力が強すぎて短剣が刺さらない。海の中は特殊フィールドになっていてプレイヤーは通常攻撃が出来なくなっている。その代わりの手段もあるらしいが…
「うぅむ、調べてから来たほうが良いか…?」
それか、海底でも使えるものを創造するかなんだが…
なんて考えていたら、なにやら凄いスピードでこちらに向かってくる人の姿が見えた。うーん、あれは…?
「あのっっ、シオンさんですよね?」
やってきたのは見慣れない女性プレイヤー。長い水色の髪で、ビキニの上にアロハシャツを着た装甲がなり薄い人だ。こんな知り合いは居ないけどなぁ…
すると、女性は小声で話し始めた。
「あの、私GMのリリティアと言います。ロサリアさんが別業務をしているので代わりにきました」
「あ、そうなんですね。ボクに用事ですか?」
「はい、ロサリアさんから伝言なのですが」
「はい」
「『何かやるつもりなら最終日にして!』だそうです」
「えっ」
「えぇと、この付近は運営チームがモニタリングしてるのですが…ロサリアさんが『シオンさんは必ずやらかす』と申してまして」
「あー…ははは」
「今の時点でこの泥を取り除かれちゃうと、クエスト進行不可になっちゃうので、申し訳ないのですが最終日にコチラから連絡するまで触らないようにお願いします」
「そんなぁ…」
「ミニゲームにアクセスできないのですよね?なので、スマホの方にミニゲームアプリをインストールしておきました。是非そちらでお楽しみ下さい。ポイントは皆さんと同様に取得できますので…」
「あっ、はい」
「大変申し訳無いのですが、どうぞよろしくお願いいたします」
GMリリティアはそう言うと、申し訳無さそうにペコペコと謝りながら去っていった。どうやらプレイヤーに紛れて管理業務をしているみたいだな。
こうして、俺は最終日まで暇になってしまったのだった。
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