96.お茶とお菓子とお喋りと

「ここが天空の島一番の商店街です」

「おぉ…」


真っ直ぐと延びる石畳の道と、左右に真っ白な建物が整然と並んでいる。道には街路樹が植えられ、所々に花壇があった。どの店も通りに面したところは大きなガラス窓が嵌め込まれているから中がよく見えて通りを歩くだけでも楽しい。


「ここはメインストリートなんですが、オススメのお店は裏道にあるんです」


うんうん、そういった裏通りにある店って良いよね。他にも面白そうな店があったら覗いてみたいが…まずは目的の品を手に入れないと。


メインストリートから外れて裏路地に向かう。裏通りとは言え、殆どの店の間口が広くなっているのはこの国の特徴なんだろうか?


「あぁ、翼を仕舞わずに訪れる住民がいますからね。先天的に翼を仕舞えない者もおりますし…ここは鳥獣人も訪れますから」


鳥獣人?天族とは違うのか?


「えぇ、彼らは天族と違い鳥に近い種族なのですよ。ほら、彼もそうですね」


ナサニエルの目線の先には頭がカラスで身体は人に近く、大きな翼の獣人が買い物をしていた。店の人ともにこやかに話しているので種族差別のない国のようだ。


「やぁ、クロウリー。買い出しかい?」

「ナサニエル様!このような場所にいらっしゃるとは…おや、そちらの方は?」

「この方は私の客人だよ」

「シオンです。はじめまして」

「なるほど、地上の方ですか。はじめまして」


なんというか…めっっっっっちゃイケボだ。「待たせたな」って言って欲しい。そして、近くで見ると青黒く艷やかな翼がとても美しく見えた。


「すごく綺麗な翼ですね…」

「えっ?」

「あっ、えっ、いや、そのっ」


思わず呟いてしまった自分にビックリして慌ててしまう。ひぃ、恥ずかしい!


「はっはっはっはっ、そんな風に言ってもらえて光栄です」

「いえ、その…なんかスミマセン…」

「良いんですよ、私も実は綺麗だと思ってたんです」


クロウリーさんは茶目っ気たっぷりにそう言うと、パチっとウィンクをした。そ、その姿もカッコいい〜〜〜〜


「ところで、お二人はどうしてここへ?」

「おっと、買い出しの途中だったんだ。いやなに、いつものお茶と菓子を買いにね」

「なるほど、それなら私の物をお譲りしましょうか?」

「いや、大丈夫だよ。他にも見たいからね」

「左様ですか。では私はここで失礼させて頂きます。この荷物を届けねばなりませんので」

「足を止めて済まなかったね。では、また」

「いえ、では」


クロウリーはそう言うと、翼を大きくはためかせて飛び去っていった。いやー、カッコいいなぁ!


「では行きましょうか」


ナサニエルが案内してくれたのは、路地裏の小さな店だった。店内には焼き菓子がたくさん並んでいて、香ばしい香りと甘い匂いがしていた。聞けば地上のクルトゥーサという国で菓子職人として修行を積みここへ戻ってきたという。


「クルトゥーサはアクローザから船で海を渡った先の大陸にある国ですね。別名を『お菓子の国』と言うくらい菓子職人が集まって日々切磋琢磨していると聞きます」

「へぇ!それは行ってみたいなぁ」

「世界唯一の製菓専門の学校があるんですよ。城下は様々な製菓店が並んでいて国中甘い匂いがしていますね。それと、酒造業も盛んなので酒に合う菓子や料理も豊富なんです」


そんな事を聞いたら益々行きたくなっちゃうじゃないか!諸々終わったら目指してみるのも良いかもな。


お土産用の『天空花茶』と『花蜜クッキー』を買ったついでに、自分用の買い物も済ませる。天空花茶と花蜜クッキーの他にも目についたものは一通り買っておいた。


「さて、そろそろ戻りましょうか」


おっと、そうだった。

忘れてない。忘れてないぞ。さぁ、戻って話を聞こうか!

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