93.消えた庭師

ナサニエルの案内で世界樹の生えているエリアの地下へ移動する。世界樹の真下だがここに根が見当たらないのは元々小さな倉庫だった場所を古の魔法で拡張しているとかなんとか。


「ここは世界樹に関する記録が収められております。えぇと…この辺りが百年以内の記録棚ですね」


ずらりと並んだ日誌に途方に暮れそうになったが、すべてを見る必要はない。まずは適当に抜き出して剪定の記述を探し出す事にした。


まずは一番最新の日記から。最新と言っても100年前だが…天族は長寿だと言うしゲーム世界で年月を気にしたら負けだ。


一応この世界にも暦はちゃんと設定されている。今は…星暦784年霜の月29日。火の月・水の月・風の月・土の月・樹の月・空の月・霜の月・氷の月・星の月の9つの月が50日毎に入れ替わる…らしい。


クリスマスやお正月なんかは現実時間に準拠してるし、ゲーム内の今が何年何月何日なのか気にする人も居ないだろう。せいぜいクエストの会話中に軽く触れられるくらいなものだろうな。


さて、日誌には何が書いてあるのか…


星暦658年風の月48日 こんな仕事やってられるか!

星暦658年風の月47日 トクニナシ

星暦658年風の月46日 トクニナシ…


うーむ、これは特にやることもなくて嫌になったんだろうか。「トクニナシ」しか書いていない日誌が数冊続いている。もう少し遡った方が良さそうだな。


さて、この辺のはどうだろう?


星暦25年火の月9日 そろそろ枝打ちをせねばなないようだ

星暦25年火の月8日 虫が付いていた部分は綺麗に再生されていた。念の為、虫除け薬を塗布しておく。

星暦25年火の月7日 樹の幹に虫が付いていたので駆除をする。珍しいこともあるものだ。樹皮が少し削れていたが明日にでも治るだろう


お、この辺はちゃんと仕事してるみたいだな。誰が書いていたのだろうか?やる気のない日誌と、この日誌の中間にあった日誌を手にとってみた。すると―


星暦329年星の月9日 明日より弟子のエリュニエルが世界樹の庭師となる。世話をしっかり頼むぞ。

星暦329年星の月8日 念の為、私が世界樹の剪定の為に必要な事をすべて記した手記を弟子に渡しておく。

星暦329年星の月7日 弟子への引き継ぎは順調だ。ヤル気は見えないが、きっと世界樹を守ってくれるだろう。


お、ビンゴ。

そこから先は少しだけ真面目に庭師の仕事をしているような記述がしてあったが、次第に「トクニナシ」になっていったようだ。


さて、ナサニエルの方は何か進展はあったかな?


「あぁ、シオン様。どうやらネステルという方が長年世界樹の庭師として管理をしていたようです。世界樹の剪定は特殊な手順が必要のようなのですが…日誌には記載されておりませんてした」

「そうか。それなんだが…」


と、先ほど読んだ日誌の内容をナサニエルに伝える。


「なるほど…そのエリュニエルが、『ネステルの手記』を持っているかもしれませんね」

「あぁ。ところで、エリュニエルという名に聞き覚えはあるか?」

「いえ…住民管理局へ行けば何かわかるかもしれません」


こうして、ナサニエルに案内されて住民管理局へ向かった。


「そういえば、あのチューブ状の道は何に使うんだ?天族は飛べるから必要無さそうにみえるんだけど」

「あれは荷物の運搬や、飛ばない者達が利用しているのですよ。主に小さな子供やお年寄りが利用しています」

「なるほどね」

「以前はヒポポティルスという空を駆ける動物に運搬させていたのですが…」

「なにか問題でもあったのか?」

「あったと言うか何と言うか…」

「言いにくいなら無理に言う必要はないぞ?」


そんなに言いにくそうにされたら…ね。言いたくないことを無理やり聞くほど野暮ではないのだ。しかし、ナサニエルから語られたのは―


「それが、『落し物』が多くて」

「…へ?」

「大昔は人々は樹上に住み、その間をはしっていたのですが…近代化が進み地面にも人が住むようになりまして」

「ふむ?」

「その…ヒポポティルスは排泄の躾が出来ませんので…」

「あっ…」


つまり「フン害」って事だ。うん、それは仕方ない。鳥どころか動物の落とし物が上から降ってくるのは勘弁してもらいたいからな。それにしても、見たかったなぁ〜。名前からしてカバっぽいんじゃないかと思うんだが。


「郊外では今でも利用されていますし、観光島には牧場もありますからいつでも見学出来ますよ?」


おぉ、世界樹の問題が片付いたら見に行ってみようか。観光島って事はカゲ達を連れて来る事も出来るのか?


「ご友人ですか?今は定期便が止まってますが、再開されれば何時でもお越し頂けますよ」


なるほど、定期便があるんだな。再開されるのが楽しみだな。

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