92.天空の世界樹
俺はなんてちっぽけな人間なんだろう…
…
……
はっ?!
危ない、うっかりトリップしちゃったぜ…
俺は今、天空の島にある世界樹の根元に立って、樹のてっぺんを見上げている。
ナサニエルは枯れつつある…と言っていたが今のところ世界樹に不審な部分は見当たらない。
「異変があるのは上の方でして…」
「上かぁ…」
そんなワケで、てっぺんを見つめていたのだが…
「ここからじゃ見えないんだよなぁ」
「そうですね。私が見たのは空からでしたので…」
それを先に言ってくれー!ってなワケでシルバの背に乗って飛んでもらおうとしたんだが…
「そうだ、良ければこちらをお使いください」
そう言って渡されたのは、小さな子が背負うような羽根のついたリュックだった。…これをどうしろと???
「あぁ、地上の方には馴染みがないのですね。これは『天空の翼』というアイテムで、装備すると一定時間空を飛べるようになるものですよ」
「えっ?!」
なんだって!?そんな便利アイテムがあったのか…
「まぁ、飛べるというか…実際に使ってみて下さい」
な、なんでそんな含みのある言い方するんだよ…不安になるだろ?!使って大丈夫なのか?
「私が付き添いますから」
うっ…仕方ない。
リュックを背負ってから胸の前で肩紐を留め具でしっかり固定する。これ、パラシュートっぽいな?
「では、その留め具の石に魔力を通して下さい。そうすると…上に飛び上がります」
「えっ…うわぁぁぁっっっ?!」
「飛び上がります」の言葉と同時に勢いよく上空へ飛び上がる。高さは世界樹よりも高いぞ?!あと、これは飛んでるというより紐なしの逆バンジー状態が正しいんじゃないかなぁぁぁぁ?!?!?!
一番高い場所までくると…
「うわぁ、落ちっ…おぉ?!」
そのまま落ちかけた瞬間、背中のリュックに付いていた羽根がブワッと広がって翼のようになってフワフワとゆっくり落ちていく。
「いいですよー!そのまま身体を行きたい方向へ傾けてくださいー!」
いつの間にか近くまで来ていたナサニエルが、扱い方を教えてくれる。なるほど、高く飛び上がってパラシュートのようにゆっくりと降りることで滞空時間を延ばしているんだな。
慣れてくれば飛び上がるのも楽しくなってくるもので…
「うひょぉぉぉ!!!!飛べる!俺は飛べるぞぉぉぉぉ!!!!」
世界樹のことなんてすっかり忘れて、思い切り楽しむこと数分。ようやく我に返ってナサニエルを見ると、ニコニコとしながらお茶を飲んで待っていた。
いや、正直すまんかった。
「では、枯れている部分へ行きましょうか」
「ハイ…」
若干の気恥ずかしさを感じつつ、ナサニエルの案内で世界樹の頂上へ。大きくて太い枝に降りると、スタスタと枝の道を進んでいく。なるほど生い茂った葉の間はこうやって歩いていかないと見えないな。
到着したのは世界樹の葉が鬱蒼と茂った場所だった。うーん、確かに葉の色が変色しているな。しかしこれは…
葉っぱの一枚に触れると、ハラリと手のひらに落ちてきた。鑑定してみると―
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『日陰にあった世界樹の葉』
日に当たらない場所にあったので、黄色く変色してしまつまている。
「アタシだってお手入れしてくれないとこうなっちゃうわよ!」
…という心の声が聞こえる気がする
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あー、やっぱり。というか、鑑定結果が不思議な文章なのは鑑定レベルが上がったからなのか?前はこんな注釈なかったよな…
「これは、病んでるんじゃなくて剪定されたいみたい」
「剪定…ですか?」
「うん、ボクも詳しくはないんだけどこういう樹木って太陽の光で栄養を作っているんだけど、陽の光が当たらない葉っぱは栄養が作れなくて変色してしまうんだ。だから必要のない枝は切って葉っぱ全体に太陽の光が当たるようにしなければいけないんだよ」
「はぁ…なるほど…」
「でも、これだけ立派な樹なのに手入れする人はいなかったの?」
そうなのだ。ここの世界樹はアケイアのものより立派だし、幹を見ると手入れされていたような跡も見えるのだ。少なくとも葉が変色する以前は剪定していた人が居たはずなんだがなぁ。
「そうですね…世界樹に関しての資料に何か記載されているかもしれません。地下の資料室へ行ってみましょう」
「それは…ボクも入っていいの?」
「それは問題ないかと。ハイエルフが入れない場所はこの世界には存在していませんよ」
えっ、それは初耳だが…そんな設定あったの???
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