91.天空の島ピルラータ

「御本人とは知らず、無礼な事を…」

「いやいや、撃ち落としたのはこっちだし…それよりも何で、お…僕の名を?」

「ラウジャジーン殿から聞いたのですが…」

「あー…」


温泉地に行く途中で出会ったハイエルフのラウジャジーンは、氷竜シェレグが温泉地へ向かう街道を塞いでいた時に出会った人だ。あちこちを旅してると言っていたが、こっちの方も来てたんだな。


「それで、僕を探してたのはなんでなんだ?」

「シオン様は病める世界樹を救った…と」

「あー、アケイアの世界樹の事かな?」


なんだか随分前の氣がするなぁ。アケイアのエルフ達は元気かな?


「実は、我らの住む天空の島ピルラータにも世界樹があるのですが…」

「まさか…」

「その…世界樹が枯れつつあるのです」


やっぱりーーー!!!わざわざ名指しでくるからな!!怪しいと思ったんだよ!!!


「なるほどな、とりあえずアケイアの世界樹に使った薬があるから、まずはこれを試してみるか…天族の住処にはどうやって行くんだ?」

「こちらから迎えを寄越します。明朝以降にあちらの灯台でこの笛を吹いて頂けますか?私はこれから急ぎ戻って支度を整えますので!」


そう言うと、綺麗な白いホイッスルを渡してきた。コレが天族の住処へ行く為のアイテムなんだな。イベントリへ仕舞うと、そう言えば名前を聞いていなかった事を思い出した。


「そういえば、名乗っていませんでしたね。私はナサニエルと申します」 


なるほど、ナサニエルね。では、明朝以降にホイッスルを鳴らすよ。

そうして、ナサニエルは背中の翼を大きく広げて、天空へ帰っていった。


特に予定のなかった俺は、翌朝ナサニエルが示した灯台へ来ていた。


「おぉ、いい景色だなー!」


灯台は誰でも登れるようになっていたので、一番上まで登ってみた。海岸沿いの入り組んだ地形と奥に広がる水平線のコントラストが素晴らしい。あっ、これネクターに教えてやらないとだな。多分忘れるけど。


景色を堪能してから、ホイッスルを吹く。音は出ていないが大丈夫なのか…?


少し不安に思って、もう一回吹こうとした時だった。遠くの方に何やら黒い影が見えてきて、段々と大きくなる。もしかして、アレが迎えか…?


若干嫌な予感を感じつつ影が近づいてくるのを待つと…


「うわぁ…」


目の前に、物凄いメルヘンな馬車が停車した。停車といって良いのか?宙に浮いてるんだが…まぁ、それよりもだ。


「翼の生えた馬に白くてゴシックな馬車…か」


オッサンが乗るにはちょっと恥ずかしいんだが…まぁ、ゲームだからな。うん。


馬車の扉がパタンと開かれると、中からナサニエルが現れた。今日は飛んでないんだな?


「飛ぶのも意外と疲れますので…」


なるほど、意外と疲れるのか…移動中腕をずっと動かすのは確かにしんどいもんな。馬車に乗り込み、いざ天空の島へ。


天空の島の名前はピルラータといい、天族の住む島を中心に大小さまざまな島が浮いているそうだ。地上とはそれなりに交流もあるそうなんだが、広くは知られていないらしい。


「魔力草?」

「えぇ、他にも地上では希少な素材が手に入りやすくなってます。ただ、あまり市場に流してしまうとそれはそれで問題になるので滅多に出しませんがね」

「そうなると、天空の島は基本的に自給自足ってことなのか」

「そうですね、それで成り立つ人数しかおりませんし」


島へ向かう途中、どんな暮らしをしているのか聞くと、小さな島にバイオプラントを建設し地上の環境を再現して野菜や果物を育てているらしい。思ったよりハイテク仕様でビックリしたが島に到着すると更に驚いた。


「めっちゃ近未来的じゃん…」


緑はそこかしこにあるが、建物はビルのような四角い形。ドームのような屋根からは木の先端が見えていたり、壁には蔦が這っていたりするのにその間をウォータースライダーのようなチューブ状の道が巡らされている。


チューブ状の道は軽自動車くらいの丸いフォルムの乗り物が走っていて、それ以外の場所では翼のある人が飛んでいる。こんな場所があるなんてビックリだ。


「間もなく島の中央、王宮ユグドラシルですよ」


そういってナサニエルが指し示した方に目を向けると、ひときわ大きな木が天の半分を覆うようにそびえ立っていた―

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