87.火竜の試練・海神の加護

《海神の影が討伐されました!ワールドファースト報酬として1,000,000イェン・SP 50P・称号【海神の影を退けし者】が付与されます。これにより、海底ダンジョンの奥へ進めるようになりました》


おっと、ワールドアナウンスか。

海底ダンジョンの奥って…神殿のことか?ということは…


「どうやら、この場所は普通に入れる場所じゃなかったみたいだな」

「たぶん、ヤスナガさんがフラグ持ってたのとセルキーちゃんが居たから入れたんだと思うわ。攻略情報には海底神殿の事は書かれてなかったもの」

「なるほど。普通のダンジョンって聞いてたのにこの展開はおかしいって思ってたんだよなぁ」


お?なんだその視線は。


「パイセンでもそんな風に思うんッスね」


おい!失礼だろ!!


「ひぇぇ、皆さん凄いっちゃ!」

「おっと、セルキー。無事だったか?」

「大丈夫だったっちゃ!」

「そうか、それなら良かった。…そうだ、お祈りは済んだのか?」

「これからするっちゃ!シオン達も一緒にお祈りしていくと良いっちゃ!お供えはあるっちゃ?」


供え物か。何でも良いのかな?イベントリには…お、最近作ったブイヤベースが入ってるな。これ、会心の出来だったんだよなぁ〜。俺的にはこのブイヤベースが一番の自信作だし、コレにするか!


セルキーの後に続いて神殿の奥の方へ進むと、そこはなんとも幻想的な世界だった。

大きな柱と梁が六角形の形に配置され、壁はすべて透明なのだ。つまり、海底が見えているってこと。


色とりどりのサンゴと、海の魚達が悠々と泳いでいる。水の泡が時折上へ向かっていき、コポコポという水の音がとても心地よい。


部屋の中央には祭壇らしきものがあり、どうやらソコへ供物を置くようだった。


「海神様、いつもありがとうございますっちゃ。アチシ達の安全と海の豊穣をお祈りしますっちゃ。海神様の御力が海の隅まで揺蕩いますように…」


セルキーが祈り、続いて俺達がお祈りをする。供物を祭壇に置いて、膝をつき握りこぶしを作って胸の前でクロスさせるこのゲーム独自の祈りのポーズだ。


すると―


『よくココまで辿り着きましたね、ヒトの仔らよ』


真上から光が降り注ぎ、巨大な女神様が降りてきた!うぉぉ!!美人!!どことは言わないが、たわわだぞぉ!水色の豊かな髪をなびかせて裾から見えるのは魚の尻尾。つまり人魚のような姿をしていた。


あれ、さっきのは蛇みたいだったよね?


『悪しき影を討伐せし事、礼を言うぞ。アレは人の負の感情が妾の力と混ざりあったもの。妾は制約により手出し出来ぬ故、あぁして石に閉じ込める事しか出来なかったのじゃ』


なるほどなー。神様が何もかもしちゃうと人の生活も台無しになるもんな。元は人の負の感情なんだから、人が解決するべきなんだ。


『ふふっ、そのように考える人と初めてうたわ。さて、そこな竜人。そなたは火竜の試練を受けておるな?…おや、水生石はすでに持っておるな。…なるほど、セルキーが渡したのか。ならば妾の加護を授けようぞ』


海神はそう言うと、手に持ったトライデントを横へ振った。水色の光の球が現れて俺達の身体に吸い込まれる。


『さぁ、これで海の中ではセルキーのように自由に泳げるはずじゃ。ほれ、そこな壁から海へ入ってみると良い』


えっ、壁から??

そう思っていると、なんとセルキーが壁に突進していった!あぶな…あれ?


なんと、壁に突進したセルキーはそのまま壁の外にタプンッと放り出された。そして、壁の向こうを自由に泳ぎ回ると再び壁に突進して部屋の中へ戻ってきたのだ。


「これ、壁じゃなくて水が膜のようになっているんですね」

「あら、ほんとだわ」

「へぇ…。すべて水面になってるって事か」

「せーのっ!!」


最初に飛び込んだのはカリンだった。

その楽しそうな姿に、他のメンバーも次から次へと飛び込んでいく。


「ほらほら、シオンも行くっちゃよー!」

「あっ、押すなって!心の準備がーーっ」


タポンッ


セルキーに押されて海の中へ入る。フワッとした感覚とわ若干の水圧は感じるが、他は地上と変わらない。手足を動かすと上下左右にスイーッと泳げるし、息も出来る。何だか不思議な感覚だった。


「あっ、すごい。スタミナ消費がゼロだわ!」

「スタミナ?なんだそれ」

「こうした水の中や火の中で行動する時はHPの代わりにスタミナを消費するのよ。例えば、海の中を泳ぐとスタミナを消費するのだけど、ゼロになると溺れて死んじゃうワケ」

「なにそれこわい」

「もちろん、スタミナ消費軽減アイテムや装備があるからそういったモノを用意すれば長時間活動も可能なんだけど、装備枠埋まっちゃうし」


なるほど、という事は海中散策し放題って事か!これは胸が熱くなるなぁ〜

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