74.哀れな王の末路

「うぉぉぉぉぉ!!!これで倒れてくれーー!!!!」


ネクター達の猛攻で、デーモンの体力も残りわずかだ。しかし、魔法陣が完成するのも時間の問題だ。迷ってる暇はない、ありったけの魔力を込めて光の槍を創り出して、デーモンに向かって投げた。


槍はデーモンの胸を貫き、天井に描かれていた魔法陣はヒビが入って、ガラスのようにバラバラと崩れて消えた。どうやら間に合ったみたいだ。危なかった〜。


《廃城の王、ドルグザーテが倒されました。初回討伐報酬としてメンバー全員にSP10と称号「魔王の影を踏みし者」が与えられます。

これにより、ワールドクエスト【魔王の影】が発生しました。冒険者ギルドの職員が調査依頼を受ける冒険者を探しているようです。参加したい冒険者はギルドへ向かって下さい》


うぉっと、ワールドアナウンスか。どうやらこのデーモンは何かのトリガーだったみたいだな?


「ワールドクエストか!これは参加するしかないな!」

「ワールドクエストって何だ??」

「知らないの?通常のクエストは個人単位で受けるけど、ワールドクエストはサーバー全体が対象の特殊クエストなの。参加しなくても良いんだけど、参加すると貢献度に応じて報酬のランクがアップするのよ!」


ほー、そんなクエストがあったのか。しかし、今までそんなクエスト発生したか?


「ワールドクエストは発生条件が不明なんです。他にもいくつか用意されていると公式でアナウンスされていますが、まだその前提条件をクリアした人が居なくて。今回が初になりますね」


なるほどなー。って事は、このデーモン倒すのが発生条件だったって事か?


「んー、もしかしてだけど廃村でリッチ倒してたのも関係してるかもね。ほら、あれってこのデーモン作った魔導士でしょ?一見繋がりのなさそうなクエストを順番通りにクリアしていく必要があるんだと思うわ」

「なるほどなぁ。チェーンクエストがトリガーになってるのか」

「ふたりとも、そんなことより玉座の方を見てご覧」


ムラサキさんにいわれてそちらを目を向けると、痩せ細った王冠の男が蹲っていた。


『これはどうしたというのだ…何故誰もおらぬ。…わからぬ。魔術師は何処へ行ったのだ?宰相は…』


「なぁ、あの王冠って貰えないのかな?」

「それは流石に無理でしょ」


『余は…余は先王のようになれなかった。気も弱く、王の器でないと陰で嗤う者たちの声に怯え…そんな時、あの魔術師に出会ったのだ』


「王様の椅子は座り心地良さそうにゃ」

「いやー、置き場所に困るだろ」


『魔術師から献上された宝玉を持つと、余は生まれ変わったような心地になれた…肌見放さず持てば、かつてこの国を興した覇王のようになれると唆されて…』


「そういや、他の部屋って見て回ってないな。王様の寝室とかあるのか?」

「どうでしょうね?ここから上か奥にあるとは思いますけど…」


『あぁ…余は間違えていたのだな…あのような甘言に乗るなど…臣民に顔向けできぬ…なんと愚かな事をしてしまったのか…』


「そうだ、この後どうする?」

「俺はそろそろログアウトだな」


『勇者よ、魔王は既にこの世界に顕現しつつある。魔王は己の力を分けて、各地で降臨の儀式をさせておるのだ。魔王の分体がすべてこの世に顕現せし時、この世界は終焉の時を迎える。まずは「ブーテンターク」へ向かうのだ。魔王の欠片がそこに…』


そこまで言うと、王だった者はサラサラと崩れて消えていった。


「ブーテンタークって知ってるか?」

「えーと、確か南の方にある森林都市だったかしら?」

「そうそう。都市名は他のクエストでも聞くけど、都市があると言われてる場所はまだ行けないんだよね」

「…そんな所にどうやって行くんだろうな?」

「ほら、冒険者ギルドへ〜ってアナウンスあったじゃない。そこで依頼を受ければ入れるようになるんじゃない?」

「ほーーん」

「お前、あんまり興味ないだろ?」

「バレたか。あ、でも新しい都市で売ってるモノには興味があるな!」


そんな風にワイワイと話す俺達を、少し離れた場所から見つめるムラサキさん達とカゲ。


「いやー、何ていうか君たちいつもあんな感じなのかい?」

「まぁ、平常運転ってところッスね」

「何と言うか、王や騎士団長の語りも聞いてなさそうだったな」

「クエストの余韻が台無しだぁ〜」

「なぁ、聞きたかってんけどシオン君ってMPどないなっとんの?回復薬飲んでへんよね?ウチとサクラっちに魔力渡しておいて、あない大きな槍出すなんておかしない?」

「そうッスか?いつもの事なんで気にした事無かったッス。適当なところで飲んでるんじゃないッスかねー」

「そうなん?そうは見えへんかったけどなぁ」


む、何か言われてるが気にしない。

気にはしないが、今度はちゃんとストーリーも楽しむ事にしよう…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る