52.ラウジャジーン先生のハイエルフ講座

さて、ウチの精霊達はあちこちで自由に過ごしている。

俺は…やっぱ風呂かな!


精霊泉の宿は精霊樹をぐるりと囲むような造りになっている。一番奥は温浴施設になっていて、精霊樹が望める大露天風呂や地下洞窟を利用した洞窟風呂。内風呂は木で出来ていて、大きな窓から精霊樹を眺められるようだ。どこの湯も精霊樹に住まう精霊が生み出していて、魔力回復効果があるらしい。


俺が向かったのは大露天風呂。

脱衣所でいそいそと装備を外していく。まぁ、ゲームなのに脱衣所で脱ぐ必要あるのか?とは思うが、気分ってやつだ。


トリONでは基本的には全裸にはなれない。装備をすべて脱いでも、男は三分丈のハーフパンツ。女はタンキニ?とかいう腹の出るタンクトップみたいなやつに一分丈のスパッツだ。


そして、俺も全部脱ぐとその状態になるんだが…ここでふと、思ったことがある。

俺って、パンツ脱げるんじゃ?と。

触ってみると…うん、これ脱げそうだわ。


誰も居ないが、一応周囲を確認して…思いきってパンツを下ろしてみる。


………


………


………


ま、リアルに作られてるわけないかー。ははは。


そのまま、何もなかった事にしてハーフパンツ状態で風呂へ向かった。

ちなみに、混浴だよ!だって全裸にはならないからね!


露天へ向うと、目の前に精霊樹がそびえ立っている。近くまで来るとその大きさがよく分かるな。ウチの木はまだまだ小さいからなぁ…ここまで成長するんだろうか?


かけ湯をしてから湯船に入る。そこまで気にする必要はないのかもしれないが、やっとかないと、なんかソワソワしちゃうからな。出掛けるときは右足から靴を履くとか、朝起きたらまず水を飲むとか、なんかそういうルーティンワーク的なやつだ。


「〜〜っっ、あぁぁぁ〜〜〜」


肩までザブンと浸かると、自然と口から出てしまうのはオッサンのさがというやつだ。


湯の温度は少し熱め。

頬を撫でる風はヒンヤリしていて気持ちがいい。正面には木に囲まれた精霊樹。目を凝らすとフワフワとした光が見える。あれは妖精だろうか?心なしか湯もキラキラとしているな。


「いやはや、相変わらずここの湯はいいのぅ」


うぉぉ!!ビックリしたぁぁ!!

ん?エロジジイじゃないか。突然現れるから驚いたぞ。


「はっはっは、気にするでない」


そう言うと、なにやらお盆を湯に浮かべた。お盆の上にはお猪口が2つ。これはもしや…


「ほれ、お前さんも飲めるじゃろ」


さ、さ、さ、酒だーーーー!!!

ナイスだ、エロジジイ!よーし、俺もイイモノ出しちゃうぞ〜!


「ほぅ、これはフキの佃煮か。ん〜山椒が効いて旨いのぅ。こっちは何じゃ?ほぅ、フキノトウの味噌和えか。うむ、苦みと味噌がなんとも味わい深い…こりゃ酒が進むわい」


ふっふっふ…風呂に入る前にササッと作っておいたのだ。酒も買ってあるが、これはまたの機会にしよう。エロジジイの持ってきた酒は薄い黄金色でスッキリとした味わいだが、コクがあって口の中でフワリと香りが広がる…なんとも旨い酒だ。どこで手に入れたんだ?


「これはハイエルフの秘蔵酒じゃよ。気に入ったのなら分けてやろう」

「いいのか?サンキュ!」


なんか、レアな酒貰ってしまった。やったー!!

いやー、ゲーム内で酒が飲めるって最高だな!見た目は少年だが酒の飲める年齢判定されてんだなー


「そういえば、ハイエルフっていくつから成人なんだ?」

「ん?なんじゃ、お前さん知らなんだのか」

「ハイエルフについて知ってる人間が周りに居ないんだよ」

「ふむ。親なし児だったか…」


あれ、難しい顔してるな。聞いたのはマズかったか?


「そうじゃな。ハイエルフの生態についてワシが教えてやろう」


ハイエルフとは

世界樹と共に生まれた最初の種族でヒト属の祖先。ヒト属とはハイエルフの似た姿。つまり、人間のような見た目の種族はすべてハイエルフが祖先である。

自然を操る力に長けており、世界樹の世話をしながら世界のどこかで暮らしている。

その寿命は長く、数百年から数千年と言われるが定かではない。例えば、ラウジャジーンが死ぬ。ハイエルフの魂はそのまま世界樹に宿り、やがて新たな身体を得てこの世に生まれる。新たな身体を得たとしても、魂がラウジャジーンなら、それはラウジャジーンなのだという認識らしい。


「つまり、服を脱いで新しい服を着てるという認識だから『死ぬ』という概念が無いんだな?」

「そうじゃな。ハイエルフにとっての『死』は『記憶の消滅』じゃ。魂に刻まれた記憶が消えた瞬間、其の者は死に新たなハイエルフとなる」


なるほどなぁ。世界樹を通して転生してるって感じか。チートというか、設定てんこ盛りだろ。だれだ考えたやつ!


「ハイエルフ同士で子はつくらないのか?」


魂が転生していくなら、子孫繁栄させる意味はあまりないよな。その辺はどうなんだろう?


「ハイエルフは基本的に性別を持たん。故に子を成す者は非常に稀じゃな」


へぇ…えっ?それじゃ他の種族はどうやって生まれたんだ?


「稀に…と言ったであろう。中には性別を持って他の種族と交わる者もおったよ。もちろん、ハイエルフ同士で子を成す者もおる」


そうなんだ。ビックリしたぜ。そうじゃなきゃ、俺がここに存在してる整合性が取れないもんな。


「お前さんを産んだ者は、おそらく常世…つまり、この世界に降りてお前さんを生んだんじゃろ」


なるほど、そういう事になるのか。

ってか、性別持たないのになんで子づくり出来るんだ?コウノトリか?


「ハイエルフは成人と認められた時、『変体』出来るようになる。そこで性別や姿形を変えるのじゃよ」

「へぇ〜それは一回限りなのか?」

「いや、回数に限りは無い。このようにな」


そう言うと、ラウジャジーンの身体が女性になった…!そうかと思えば、一匹の狼に変化する。そして、元の姿に戻った。

女好きなら、自分で女性になれば良いのに。


「何をいうか。自分がオナゴになるよりオナゴを侍らす方が良いに決まっておろう!ワシは男性体にしかならんと決めておるのよ。今回は特別じゃ!」


やっぱりエロジジイじゃねーか!

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