51.精霊泉の宿

シェレグが飛び去ると、中継地の方から馬車が数台やってきた。どうやら街道が、通れるようになったのを察知してやってきたようだ。


「おぉーい!冒険者の兄ちゃん!大丈夫だったかー?!」

「おっちゃーん!」


御者のおっちゃんが先頭だ。大きく手を振って無事をしらせる。


「いや〜、もうすぐ通れるってんでお客と待機してたんでさァ。そしたら、ドラゴンが飛んていくのが見えやしてね。こりゃ通れるぞ…と、馬車を走らせてきたんでさァ」


おっちゃんが温泉地まで乗せてくれると言うので、有り難く乗せてもらった。すっかり御者台が気に入った俺は、またもやおっちゃんの隣だ。ちなみに、エロジジイは難しい顔をしたまま車内に乗っている。


やがて、温泉地に到着した。エロジジイはいつの間にか居なくなってたが、精霊泉の宿で話を聞くことになっているし気にしなくても良いだろう。


おっちゃん達に物凄く感謝され、仕事があるから…と名残惜しさも感じつつ別れた。さて、カゲ達と合流しないとな。俺がドラゴンの所へ行っている間、それぞれログアウトしたり散策したりと自由に過ごしていた。


クランの伝言機能を使って、精霊泉の宿集合と伝えておく。これは元々使える機能だったんだが俺がメニューにフルアクセス出来ないせいで使えなかったんだよね。ムラP特製のスマホのおかげで、ログアウト以外の項目が使えるようになっているのだ。


さて、俺も温泉地観光しようかな!

あちこちの店を見て回り、美味しそうなモノは片っ端から買っていく。イベントリへ入れておけばいつでも食べられるからね!


アクセサリや装備品も売っていて、最近女児が着ているようなフリフリの浴衣なんかもある。…あれ、可愛いな?え、試着?いやー、ははは。


俺のイベントリには、黒地に妖精の羽があしらわれたシックなゴスロリ浴衣が入っている。

…いや、店員さんに進められるがまま試着したら意外と似合っちゃっててだな。気が付いたら頭の先からつま先までフルコーディネートされた物がイベントリに入ってたんだ。店員の話術はコワイナー。


さて、プラプラ歩きながら精霊泉の宿を探す。ふむふむ、温泉地の端にあるのか。そこまで遠くないし、こっちの方にも面白そうな店があるから、向かいながらアチコチ覗いていこう。


温泉地のある場所もそうだが、この辺りは岩山が多い。その中には鉱山があるらしく、様々な鉱石がお土産品や素材として売られていた。どの石も綺麗だなぁ。お?ミスリルにアダマンタイトまであるぞ!1日に買える数は限られているが、値段はお手頃だ。その他にも珍しい鉱石なんかを買い込んだ。


さて、精霊泉の宿まで辿り着いたが…建物の裏に見えてるのは精霊樹か?ウチにある樹より立派だなぁ。

さっそく宿の中へ入ると、老舗旅館風の内装だ。広めのエントランスは右手にソファとローテーブル。左手にはカウンターがあった。

奥に向かって廊下が伸びていて、その左右には砂利と小ぶりだが形の良い松が植えてある。小さな池も作られていて、水琴窟と呼ばれる地中に埋まった壺がある。これは水滴が穴の中へ落ちると、不思議な音色を奏でるものだ。


受付へ行くと、一人のエルフが出てきた。へぇ、エルフが営む宿なんだな。


精霊樹のある場所は宿の中心にあるらしく、部屋からも精霊樹が見れるようになっていた。これ、夜はキレイなんだろうなぁ。

カゲ達はまだログインしてこないようなので、先に温泉へ入ることにした。


精霊泉という名の通り、精霊の力で湧き出した温泉らしい。せっかくだから、ウチの精霊たち喚ぶか!拠点で待機していたメンバーを呼び寄せる。


ナビゲーター精霊のナヴィ、神獣フェンリルのシルバ、ドワーフのドフィ、ノームのムート、屋敷妖精のスレア、ウンディーネのアクア。


『ご主人様、呼んでくださって有難う御座います』

『へぇ!こりゃイイトコロだな!』

『ねぇねぇ!精霊樹へ行っていい?!』

『オ…オラも、いくだす!』

『わたしは泉の方へ行こうかしら』

『我は辺りを散歩してくる』


相変わらず賑やかで自由な精霊達だなぁ。好きにしてていいが、他の人に迷惑はかけるんじゃないぞー?


『お任せ下さい、しっかり注意しておきます』


うん、頼んだ!でも、スレアもちゃんと羽を伸ばすんだぞー?

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