28.シュリの道具屋
翌日、俺は一人でフェーヴの街を歩いていた。他のメンバーは皆ログアウト済みだ。
流石にログアウト出来ない事情は話してないから、長期休み中なのだと皆には説明している。
フェーヴの街並みはハジーメとそんなに変わらない。店の品揃えも似たような感じだ。まぁ、まだ序盤だしこんなものだろう。湿地帯があるからか、カエルやトカゲ系の素材が売っているようだ。
ふらふらと歩きつつ、裏通りを進む。
しばらく歩いていると、入り組んだ路地裏の一角に気になる店を見つけた。
焦げ茶色の屋根にツタで覆われたレンガ造りの家だ。家の周りにはプランターが置いてあって色んな花が咲いていた。看板には『シュリの道具屋』と書いてある。何か変わったものはないかな?ちょっと覗いてみるか。
ドアを開けると、中は思ったより広く左右の店には様々なアイテムがあって、大小様々な鉱石や薬草、獣の皮や骨、カエルの肝やイモリの目玉なんて商品も置いてある。その中から気になるものをカゴへ入れて、カウンターに声をかけた。
「すいませーん、これくださーい」
「はぁーい、ちょっとまってね」
中から聞こえたのは若い女性の声。
いかにもなお婆さんじゃなくて良かった…。いやほら、店の立地とか店内のラインナップ見たら…ねぇ…
出てきたのはフードを被った女性。あっ、お婆さんじゃ無いけどやっぱそっち系なの…?
女性は俺の顔を見て固まっている。なんだ?そんな驚くような顔してるのか?
「あのー?」
「ハッ!…失礼しました。ではお会計を…」
お金を払い商品を袋に入れてもらう。フードの女性はその間もコチラをチラチラと見てくる。…ほんと、何なんだ??
「あの、貴方様はハイエルフの御方でしょうか…」
「へ?えぇと、まぁ…ハイエルフですね」
「!!!!」
口を抑えてよろめくフードの女性。その反応はちょっと、オジサン傷付いちゃうよ…。
俺の傷心を知ってか知らずか、慌てた様子でフードを外した女性は金髪碧眼の美人エルフだった。
「ああああのっ!わたしはアケイアの森のエルフでシューリハースと申します!訳あってここで道具屋を営んでおりまして…少しお話を聞いていただけませんか?!」
「えっ?まぁ、それは構わないですけど…」
「ありかとうございます!!」
勧められるまま、店の奥の部屋へ案内される。住居兼店舗らしく、奥はダイニングキッチンになっていて、その他にドアが三つあった。全体的に古いが、森の中に居るような心地よい空気が流れていた。
「えぇと、何から話せばいいのか…」
出されたハーブティーを飲みながら聞いたところ、シューリハースさん…シュリさんの一族は、アケイアの森というエルフ領にある森の一つで暮らしているそう。しかし、その森が年々力を失いつつあり、このままでは一族が困窮する為、こうして里の数人が危険を犯して外へ働きに出ているらしい。
「我々は闇の商人に狙われやすく姿を隠しながら働かなければならないのが現状なのです」
今までも外に出て行方知れずになったエルフが居るらしく、その人達の捜索も兼ねているのだとか。そして、森によって護られていた里は、森の力が衰えると共に外部から狙われやすくなってしまうらしい。
「エルフは元々種族としての数も少なく、このままではエルフ領ごと滅びの道を辿るやもしれません」
「そんなに大変なことになってるんだね…」
「はい。…こうなっては、エルフの祖であるハイエルフ様に助力を願うしか無いというのがエルフ領の総意なのです」
エルフに伝わる創世神話には、
『大地を創り給うた創世神が最初に創ったヒトはハイエルフだった。その後、世界の様々な事象を司る神を創り、創世神により創られた神々はヒト族、精霊、獣を生み出した。それらは混じり合いながら更に様々な種族となり大地の隅々に降り立った。原初のヒトたるハイエルフは、創世神より賜りし聖なる大樹と共に深い森を創った。そして、そこから森の守護者として現世を見守っているのだ』
と書いてある。
おそらく、その大樹に異変があったのではないか?というのがエルフ領の領主達の見解だ。しかし、ハイエルフの里へは誰も辿り着けず途方に暮れていたところ、俺が現れたって感じ。
「ハイエルフである貴方様なら、ハイエルフの里へ辿り着けるはずです!何卒、私達エルフ族にお力をお貸しください!!」
そんな話を聞いて「嫌だ」なんて言えないよね…
「ボクはハイエルフという種族ではあるけど里のことは何も知らない普通の冒険者です。お役に立てるかはわかりませんよ?」
「大丈夫です!ハイエルフならば!」
「えぇー…」
とりあえず、カゲ達にも話しておきたいし一旦保留にして、仲間と相談してからまた来ると伝えて店を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「と、いうワケなんだ」
「へぇ〜、面白そうね!エルフ領行ってみたい!」
「そうですね、絶景巡りにも良いかもしれませんよ」
「エルフ領って普通に入れるんスか?」
「ううん、特殊な許可が必要なはずよ。それも含めてその…シュリさん?に聞いてみたらどうかな?」
「ウチはどこへでも行くにゃー!」
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