26.草原カエルと猫娘

うーん…


「雨…ッスね」

「雨…だな」

「雨かぁ〜」

「雨ですねぇ」


二日目の旅路は雨スタートだ。カゲ達は濡れないが、俺とムッス君は濡れるので雨ガッパを着込む。魔法でどうにでもなるんだが、ムッス君に雨の時の動き方を教えるためにあえてカッパ姿になる。


「そういや、街の人達は雨の日はどうしてるんだ?露店とか…」

「屋台には雨よけの機能がついてるんだよ。だから、屋台のある場所は雨が降ってても濡れないんだ。風が強い日は風除けの魔道具も使ってるよ」

「へぇ、そうだったのか」


魔道具って高級品なイメージがあったけど、意外と普及してるんだな。


そんな事を話しつつ、森から街道へ出て目的地を目指す。

周りの景色が段々と変わっていく。この辺りは農村地帯のようで、田園風景が広がっている。


さて、雨の日はちょっと変わった獣が出現する事がある。今、目の前にいるのは草原カエル。主な生息地は水辺なのだが、雨が降ると街道にも出現する。火に強く、口から水弾を飛ばして攻撃してくる。身体は粘液で守られていて打撃耐性を持っている、少々面倒な獣だ。


草原カエルが落とすアイテムは皮と肉と魔石。皮は防水素材に、肉は食用だ。ハジーメではあまり見かけない肉だが、鶏に似た味と食感で美味しいんだ。女性陣は微妙な顔をしていたが、その場で軽く焼いて味見させたらすっかりハマったようだった。


ムッス君も気に入ったようで


「ウチのタレにも合いそう!店の新しい商品に出来ないかな」


と、真剣な顔をしていた。その後は草原カエルを狩りつつ街道を進んでいった。


野営地に着く頃には雨もあがって、晴れ間が覗いていた。


「雨が降ったあとなのに、地面が乾いてるな」

「え?晴れてるんだから当たり前だろ?」

「そうかー、当たり前かー」


当たり前らしいです。うん、俺が悪かったな。


野営地には少し早めに到着したので、周辺を散策することにした。野営地からさほど離れていない場所に沼地を発見。草原カエルの生息地らしい。


狩りたい気持ちをグッと堪えて、他の場所を見て回る。この辺は湿地になっているようであちこちに草原カエルを見かけた。


「ここなら安定してカエル肉集められそうだなぁ」

「ムッちゃん弓と短剣使うなら余裕ッスね」

「そうね、この辺のカエルなら少し鍛えれば狩れるし隣街とも近いもんね」

「オジーさんにプレゼンしないとですね!」


ムッス君は本を片手に辺りの植物を見て回っている。何ヶ月かに一度訪れる本の行商人から買ったらしく、時期的にそろそろ街へ来るはずだと教えてくれた。



「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


沼地を歩いていると、何処からか叫び声が聞こえてきた。声の聞こえた方へ向かうと、一人の猫獣人女性が複数のカエルと戦っていた。あー、カエルの巣を突いちゃったのかな。森林カエルは巣に触れると大量に沸くのだ。良い子は触らないでね!


「いにゃぁぁぁ!!!かえるぅぅぅぅ!!!」


物凄い勢いで殴り倒してるけど、なんか凄い必死なような…


「やにゃぁぁぁ!!!なんでこんなにいるんにゃぁぁぁぁぁ!!!!」


あっ、カエル嫌いなんだな。なんで殴った?


「ひぃぃぃん!!!もうやだよぉぉぉぉぉ」


チラリと他の四人を見ると…あっ、なんかチベットスナギツネみたいな顔してるね。うん、たぶん俺も同じ顔してる。


しかたない、ちょっと手を出すか…


『雷撃の矢雨アローレイン


雷を纏った矢の雨が一帯に降り注ぐ。水には雷。はっきりわかんだね。

3発ほど撃てばカエル達の姿は見えなくなった。


目を回してた彼女を野営地まで運んでネクター達のテントに寝かせる。夕飯の支度をしつつ皆で雑談をしていると、彼女が起き出してきた。

俺達の姿をみるなりジャンピング土下座をしてきた。おぉ、ジャンプ力すごいな。


「大変申し訳ありませんでしたにゃー!」


猫獣人はカリンといって、オレンジの髪に金色の瞳の小柄で、格闘系のジョブなんだとか。隣町まで行く途中であの沼地に入り、カエルに尻尾を喰い付かれて驚いた拍子に巣にぶつかってしまったらしい。なんて不運な…


「情けないにゃー…八聖の名が泣くにゃー…」

「うん?八聖?」

「そうにゃー。八聖なのにゃー」

「へぇ、こんなトコロでお仲間に逢うなんてねー」

「ふぇ?オナカマ?」

「私とこっちのネクターとシオンさんも八聖ですよ」

「にゃ!!!にゃんですと!!!」


丸い瞳が更にまんまるになっている。話す度に尻尾がピーンと立ったりへにゃっとしたりで面白いな。

どうやら、一緒に遊ぶ予定の友人達はスタートが遅かったせいで、ログインする頃にはずいぶんと先に進んでしまっていたのだとか。


「仕方がないから一人で遊ぼうと思ってたのにゃ。でも寂しかったのにゃー、だからお友達になってほしいのにゃー!」

「ボクは良いけど…皆は?」

「オレはOKッスよ」

「ワタシも良いわよ!」

「もちろん、喜んで」


ついでにクランに勧誘してみたら、二つ返事で加入した。よっぽど寂しかったんだな。

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