25.いざゆかん、冒険の旅!(※隣街まで)

拠点へ帰ってネクター達にランクアップと依頼を報告すると、丁度いいからと一緒に行く事になった。


3日後の早朝、露店へ向かうとオジーさんと息子さんがすでに待っていた。息子さんは12歳くらいだろうか、オジーさんは黒髪なのに対して赤いくせ毛だ。奥さんに似たのかな?ちょっと大人しそうな印象だ。


「すいません、お待たせしました」

「いんや、オレらが早かっただけさ。こいつが息子のムッスだ。ほらムッス、お前の護衛をしてくれる冒険者さん達だ」

「おはようごさいます!今日はよろしくお願いします!」

「よろしくね、ムッスくん。俺はシオンだよ」

「オレは黒影。よろしくなー」

「ワタシはネクターよ」

「サクラモチです。よろしくね」


ムッスくんは礼儀正しい子供なようで、すこし赤くなりつつも、しっかり皆に挨拶をしていた。行き先は隣街だが、ムッス君と歩くなら2日はかかるらしい。寄り道すると3日くらいは掛かるかな?確認すると、本人達もそのくらい掛かるだろうと言っていた。


オジーさんが見送る中、俺達は隣街へ続く街道を歩き出した。街道の周辺は草地になっていて、外れた場所が森になっている。

ムッス君も時折森歩きをしていたらしく、体力的にはまだまだ余裕がありそうだった。

お昼にオジーさんの奥さんから差し入れてもらったお弁当を食べてから、森のなかに入ることにした。

お弁当にはオニギリとだし巻き卵。ウィンナーとブロッコリーにプチトマトが入った「ザ・お弁当」というお弁当だったが、大人な我々はこういう味に飢えていたので、非常に美味しくいただきました。うむ、満足。


「さて、これから森に入るけどムッス君は俺から離れないようにね。気になるものがあったら、遠慮なく言って」

「うん、ありがとうシオン君!」


…どうもムッス君は俺のこと同い年の子供だと思っているようなんだよな。

まぁ、それは置いといて。俺とカゲが先頭でその後ろにムッス君。ネクターとサクラは殿しんがりだ。


「おっと、早速ウサギ発見〜」


みれば草むらの影にウサギがいる。まだこちらには気がついていないようだ。

現実世界の野ウサギは、人間を見ると逃げるが、ゲーム世界のウサギはレベルが高くなると凶暴化して、同レベル未満だと問答無用で襲ってくる。他の獣も同様で、魔物はレベル差関係なく襲ってくる。


獣と魔物はどう区別されているのか?これはゲームによって様々だが、トリONでは『野生の本能を持ち、魔法を使わない動物を獣と呼び、自我が無く闘争本能だけが残り、魔法を扱う動物を魔物と呼びます』と言うことらしい。普通の獣にも魔石はあるから、魔石の有無は関係ないようだ。


さて、ウサギは発見したが依頼主はムッス君なので、これからどうするかを聞いてみる。


「そうですね…一度倒してみてくれませんか?イキナリは自信なくて」

「そうだね。ムッス君は弓と短剣を使うのかな?」

「うん、そのつもり!魔法も使ってみたいけど…」

「うーん、魔法はサクラの方がいいかな。まずは俺が倒すね」


一発で仕留められるけど、それだとムッス君の為にはならないので、まずは矢をウサギの足元に射て敵視をこちらへ向ける。

まっすぐ向かってくるウサギをギリギリまで引き付けてから、頭を射抜く。


次は短剣だ。もう一匹を見つけたら、今度は石を投げる。同じようにコチラへ向かってきたらしっかり狙いを定めて、首を一閃。

絶命したウサギは肉と毛皮と魔石を残して消える仕様なので残酷さは軽減されている。


「うわぁ…すごい…」

「ウサギを狩るなら、今みたいにギリギリまで敵を引き付けてから急所を攻撃するのが良いかな。アイツら跳躍力と素早さがあるから無闇に攻撃しても当たらずにこっちが消耗するからな」


ウサギを狩ったあとは、ムッス君に弓の扱い方や短剣のさばき方を教えながら森を歩いた。途中で薬草の採取もしつつ、最初の野営地へ到着した。

野営地は街道の途中にあるセーフゾーンで、ここに獣達は入ってこない。ちょっとした露店と国に所属する傭兵団の拠点も兼ねている。


宿は無いが広場があるので、野営をする冒険者達はここにテントを建てる事になっている。もちろん、俺達もテントは準備済みだ。ムッス君も一人用のテントを持ってきていたが、今回は俺達のテントで寝ることにした。


皆が寝静まったあと、そっとテントを抜け出すと満天の星空が広がっていた。

見張りの傭兵は居るが、広場は俺達以外の利用者が居ないこともあって静かだ。


地面に座ってボンヤリと空を眺めていると、隣に人の気配がした。


「パイセン、どうしたんスか?」

「んー。ちょっとな」


カゲがホットミルクティーを差し出してきた。無言で受けとると、そっと口をつける。

気付かないうちに冷えてたのか、温かいものが身体の中心を通っていく。


「それにしても、最初のムッスの顔はヤバかったッスね」

「え?」

「パイセン見て真っ赤になってたッスよー」

「えぇー」

「そのあとパイセンが「俺」って言ったの聞いて、今度は青くなってたッス」

「マジかー。全然気付かんかった」

「パイセン鈍いッスからねぇ」

「そうか?そんな事ないと思うけど…」

「鈍いッスよ」


カゲが俺を見つめてくる。なんだ?なんか付いてるんか?あっ、夕飯の食べこぼしのシミか!夜はカレーだったからな…洗浄!っと。ふー、やれやれ。オッサンが服に食べこぼしのシミ付けてるなんて恥ずかしいからな!


「これは、先が長そうだなぁ…」

「ん?何か言ったか??」

「いや、なんでもないッス。それよりホラ、そろそろ寝ないと明日に差し支えるッスよー」


お、そうだな。そろそろ寝るかー!


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ここまで作品を読んでいただきありがとうございます!


カゲ君が少し不憫な感じではありますが果たして…?

ちなみにシオン君はゲイではありません。女性は苦手だし付き合う気も起きないけど、男性と付き合いたいという考えは今のところ持っていないようです。


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