17.無許可配信ダメ、絶対

「あっ、ワールドアナウンス…」


ドラゴンとの戦闘でクタクタの俺達は、この場に座り込んでしばらく放心していた。…まぁ、俺はそこまで疲れてはないんだけど。気分的にね。迂闊に戦闘不能出来ないのは精神的にかなり疲れるな。


「あっ、宝箱!」

「おぉ、開けようか」


目の前には宝箱が二つ。中身はドラゴンの素材と装備品。あとは宝石とイェン。

装備品は、『竜の髭』と名前の付いたハルバードと呼ばれる斧と槍が合体した武器と、『ドラゴンの錫杖』という杖。『緑竜のマント』という薄いグリーンのマントだった。


「これは全部シオンちゃんが持ってってちょうだい。迷惑かけちゃったし…」

「えっ?いや、流石に全部はいらないよ。二人が頑張ったから討伐出来たんだし、俺はサポートだけだったからね」

「でも…」

「ネクター、とりあえずそれぞれが必要なものを分けたらどうかしら?その後で改めて御礼を渡すのはどう?」

「あ、賛成。正直、武器は貰っても使えないからなー」

「うぅ…わかったわ。それじゃ、分配はサッちゃんお願い」


サクラと相談した結果、マントと素材が俺。その他は二人でという事になった。マントは防御力が高く即死防御が付いていた。戦闘不能になれない俺には神アイテムだ。


「そういや、なんでドラゴンに追いかけられてたんだ?さっきも森の奥でやらかしてただろ?」

「あぁ、それね。実はスキルの確認をしてたのよ」

「スキルの?」

「そう。サッちゃんの魔法が今の段階でどこまでの威力があるのか検証してたのよ」

「思いの外、色々と使えたので楽しくなってしまって…」

「あー、それで獣達が驚いて大暴走したってワケか。ドラゴンも?」

「そうなの。最初にやった場所だとまた他の人を巻き込むかもってなって…もっと奥でやってたら、ドラゴンの巣を巻き込んじゃったのよねー」

「迂闊が過ぎる!」

「ネクター、迂闊ついでに一つ忘れてるようだけど…」

「えっ?」

「アナタ、生配信中じゃなかったかしら?」


なんですと?生配信中??

みると、ネクターが青い顔をしていた。あー、やらかしたんですねわかります。いやまて。これ俺も配信されちゃってないか…?


「お前何してんだー!!!!」

「うわーーーーごめんなさいーー!!!」

「皆さん視聴ありがとうございました。今日はこの辺で失礼します。この後どうなったかは、次の配信でお話できたらと思いますので気になる方はチャンネル登録よろしくお願いします。それでは、追いかけられてるネクターを見ながらお別れです。さようなら〜」


ネクターが土下座している。


「うぅ、ほんとごめんなさい…」

「まぁ、終わったことは仕方ない。次からは気をつけてくれよー」


そう、すでに配信されてしまったのだ。今更足掻いても仕方ない。アーカイブは残さないと言うし、俺が映ってしまった部分は切り抜き等での拡散は禁止にしてもらった。まぁ、それでもネットに出てしまうんだろうけどな。


そうそう。当初の目的だった若木だが、ドラゴン騒動の前に何本か確保していたらしい。そして、宝箱の中にも『精霊の若木』というアイテムがあったのだ。ネクター達に相談したところ、快く譲ってくれた。その話の流れで、拠点へ招待することになった。


森を抜ける途中で、カゲから連絡が入った。


「パイセン!ネクターちゃんの配信に出ちゃってましたけど…大丈夫スか??」

「おー、見てたのか。まぁ、不慮の事故だ」

「パイセンが良いならいいッスけど…」

「あ、そうそう。これからネクター達を拠点に連れてくから、お茶の準備しといてくれー」

「えっ?!わ、わかったッス!」


拠点にはスレアも居るし、買い置きの食材もあるから大丈夫だろう。

そんな事を考えながら森を抜けるようと出口近くまで進むと、なにやら多くの冒険者がいる。なにかあったかな??


「あー、さっきのアナウンスと配信で集まっちゃったのかも…」

「あ…」


そりゃそうか、あんなワールドアナウンスがあったし人気ゲーム配信者なんだっけ。野次馬が居るのも当然かー…って、いやいや困るんだけど?


「ちょっと引き返そう。この中を拠点まで歩くのは色々とマズイ」

「えっ?良いけど、どうするの?」

「サクラ、隠蔽魔法とか無いか?」

「…あぁ!ありますよ。気配遮断と存在隠匿ね。ただ、精霊達には掛けられないのですけど」

『我らは自身で隠匿出来るから問題ない』


おぉ、そんな事もできたのか。便利だな〜。

そんな感じでサクラに魔法をかけてもらい、そっと人混みを抜ける。誰も気付いていないようだ。俺達はワールドアナウンスにザワつく街の中を抜け、そのまま拠点まで戻った。


「おかえりッス!そしてようこそ!」

『いらっしゃいませ、お客様。こちらへどうぞ』

「すごい、庭付きの一軒家なんて誰も持ってないわよ?!」

「いいお家ですね、何だか落ち着きます」

「そうだろ?たまたま手に入れてさ〜」


居間へ入ると大きめのソファと机が置いてあった。いつのまに…?

ドフィ親方をチラリと見ると、サムズアップしている。なるほど、来客があるから用意してくれたんだな。俺がサムズアップで返事すると、ニカッと満足そうに笑っていた。


「いいなぁ、ワタシもはやく一軒家欲しいわ…」

「そういえば、拠点はどうしてるんだ?」

「ギルドの隣に冒険者専用の宿屋があるのよ。一定ランク以上で開放される所なんだけど、狭いし扉の外で野次馬がウロウロするから落ち着かなくって…」

「一軒家なら、ある程度距離が取れますからね。宿屋よりは休まるかと」

「なるほどなー。でも他に借りれそうな一軒家は見つかってないだろ?」

「そうなのよー。クエストとか何かしらの条件があるんだと思うんだけどね」


人気者も大変だな。

そういや、この家使ってない部屋まだあったなぁ。あと二人なら余裕で住めるんだよな…


「ここに住むか?」


余った部屋の事を考えながら、うっかり口から出てしまった。言ってから気付く。流石に女性二人とシェアは問題なんじゃ…?と。しかし、二人はそうは思わなかったようだ。目をキラキラさせて前のめりになっている。


「いいの?!」

「お、おぅ。部屋は余ってるし…この場所を口外しないのと、野次馬を連れてこないのが条件だが。それで良ければ俺は構わないぞ。カゲはどうだ?」

「えっ?あー…パイセンが良いなら、俺も構わないッス」

「決してご迷惑はかけませんので、是非ともよろしくお願いします」


こうして、俺達の拠点に新たな仲間が加わった。

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