11.大問題の大騒動
家を飛び出て冒険者ギルドへ走る。二階の階段を駆け上がると、ロサリアさんと話した部屋へ駆け込んだ。
「えっ?!何?!誰っ?!」
「すいません、GMさんですよね?!」
部屋にロサリアさんは居なかったが、別の男性が座っていた。ロサリアさんから、この部屋にはGMが常駐していてゲーム内の不正監視やトラブルの対応をしていると聞いていたのだ。
なので、目の前で慌てる男性もGMなはずだった。そして、それは正解だったようだ。
「あっ、君は八聖の子だね?ビックリしたよ〜。ここ、普通は入れない筈なんだけど君何かやった?」
「やった…というより、やられました」
「へ?」
ここに来たいきさつを話す。自称女神の事も話すことが出来たので、情報のプロテクトはされてないようだ。話し終わるとGMの男性は頭を抱えて動かなくなってしまった。
「あの…俺どうなるんでしょうか」
「あー…これはちょっと緊急会議しないとダメだね。これから招集するからココで待っててくれる?君にも説明と、必要ならデータに介入しないとだからさ」
「わかりました。よろしくお願いします」
「いや、こちらこそこんな目に遭わせてしまって本当に申し訳ありません。すぐに原因を調査し不具合の解消に努めますので、しばらくお付き合い下さい」
しばらくすると、ロサリアさんやその他の面々が部屋に入ってきた。あの黒の鎧は着ていないんだな。と思っているとロサリアさんがニッコリとして「あれはプレイヤートラブル対処の時だけ装備するのよ」と教えてくれた。何も言ってないけど何でわかったんだろう…
部屋の中にはGMが2人、開発陣から5人、そして俺の計8人がいる。GMはともかく、開発者とゲーム内で顔を合わせるなんて滅多にできない経験だ。自然とワクワクしてしまうのは仕方ない。仕方ないんだ。あっ、ロサリアさん何でちょっと呆れ顔なの!
「初めまして、シオンさん。私はトリップinファンタジーONLINEのプロデューサー吉村直哉です。この度は大変申し訳ありませんでした」
「えっ!ムラPさん?!いやいや、大丈夫ですから顔を上げてください!えっ、本物?!うわー、本物だぁ」
とんでもない大物の登場に嫌でも興奮してしまう。トリONのヨシムラPと言えば、世界的超有名オンラインゲームのプロデューサーとして名を馳せていて、つい先日には密着番組が放送されていた。もちろん、俺も大ファンだ!
「えー、では現状の確認とこれからの対応についてお話させて頂きますね。すでにGMアサヒに説明していただいたと思うのですが、もう一度お話下さいますか?」
「はい、モチロンです…あの、そんなにかしこまらないで下さい。俺も緊張しちゃうんで…」
「うん、わかりました。それじゃ、フランクに話をさせてもらうね。皆もそれでヨロシク」
そうして、俺は自称女神に出会ったこと、その後ログアウト出来なくなっていたこと、ステータス画面がおかしな事になっていることを話した。
「それじゃ、実際のステータス出してみようか」
ムラPがそう言うと壁に大きくステータス画面が表示された。自分が丸裸にされてるようでちょっと恥ずかしい。
「あれ、ハイエルフって実装されてんの?」
「いえ、データだけある状態だった筈です。彼は限定セット当選者なので、AIが生体データを元にしてキャラクター生成をしていますから完全にランダムで設定されてます」
「称号も変ですね。実装記録に無いものがあります」
「ハッキングの可能性は?」
「いま総出で洗い出していますが、形跡はないですね。AIにも改ざんの跡は見当たらないですし…」
「このスキルは?俺見たことないけど」
「そうですね、おかしいな。『女神』に確認してみますか…」
その時、部屋の中が金色に光り輝いた。あまりの眩しさに目を閉じてしまう。しばらくして目を開けると、先程の部屋と違う場所に立っていた。部屋に居たメンバー全員だ。
「ビックリした…何が起きたんですか?」
渋い顔をして、前を見つめるムラPに聞いてみた。他のメンバーも驚いた顔をしている。これは想定外の事が起きてるな?
『ここは創世神の領域。世界の生成と管理を行う場所です』
目の前に金色の女神が現れた。ゲームのトレーラーで見た人だ!
『私は創世の女神。この世界のすべてを司るもの。ようこそ、マスター』
「創世の女神。この子の種族とスキルを決定した理由は?」
『その者の存在は認識されていません』
「…どういう事だ?」
『外部より来たりし女神が世界に介入しています。その者は外部の女神によって生成されました』
「ハッキングされたのか…」
『いいえ、外部の女神は電子信号を持ちません。未知の存在です』
「…そんな事があり得るのか?」
『外部の女神の介入はその者に対してのみ行われており、世界の生成は滞り無く行われています』
「うーーーーーん」
ムラPが考え込んでいる。これはどうしたもんか…
「あの、なんで僕たちまでここに呼ばれてるんでしょうか」
試しに質問してみる。世界生成AIだから、このゲームの心臓のようなもの。質問しても無駄かな〜とは思ったが、つい聞いてしまった。
『現況を素早く把握するには直接会話したほうが合理的と判断しました』
あ、答えてくれるんだ。たしかにココで一度に話を聞けばいいもんね。うん、合理的。
「とりあえず、彼の肉体の方は問題無さそうかな?」
『生体データに異常は見られません。現状においては問題なく生存していると思われます。詳しくは生体管理情報を参照して下さい』
「わかった、ありがとう。通常業務に戻ってくれ」
『畏まりました。AIへのアクセスを解除、ゲーム内空間へ転送します』
そうして、元の部屋へ戻ってきた俺達。結局なんの解決もしてないな?
「これは骨が折れそうだな…」
ムラPが項垂れながらそう呟いた。
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