9.浄化の石とロサリア

目覚ましのアラームが鳴っている。


メシ食って風呂入って…それから記憶がないな。ぐっと伸びをして朝日を浴びる。気持ちのいい朝だ。コーヒーを飲みながらメールチェックをする。お?カゲから連絡が入ってるな。ふむ、あいつは午後からログインね。


軽くシャワーを浴びて、軽食を取る。公式サイトを確認したら、早速ログインだ。


拠点のベッドで目が覚める。のそりと起きるとスレアがやってきた。留守中に問題はなかったか確認して、他の精霊たちと少し遊んでから冒険者ギルドへ向かう。


今日は姿は変えずに認識阻害のローブを羽織るだけにしたが、特に注目されることもなくギルドまでたどり着けた。ホッとしつつ、今日の分のクエストを確認する。


「これが本日受けられる依頼です」


受付嬢からクエストを受注して、早速森へ向かった。ゴブリン討伐、薬草採取、ウサギ皮の納品の3つだ。ゴブリンの生息地は森の奥。途中でウサギを狩りつつ生息地へ向かう。


ちなみに、俺の武器は弓と短剣にした。非力だが、弓スキルを取ったおかげで難なく弓を引く事ができた。魔眼スキルとフォームアシスト機能で弱点を確実に貫ける。矢は何故か減らない仕様なので、遠慮なく撃てるのも良い。ちなみに、当たった矢も消える。細かいことは気にしてはいけない。そういう仕様なのだ。


シルバの活躍もあって、ゴブリン討伐も無事に完了。魔眼で鑑定しながら薬草や売れそうなものも採取していく。そのまま、森を彷徨いていると、濁った泉を発見した。

周りの草木もなんだか枯れているし、腐ったような臭いもしている。


「なんか…綺麗になったら癒しスポットになりそうだよなぁ」


そう思いつつ、泉の周辺を魔眼で鑑定していく。


【呪われた泉】瘴気に冒された泉。元は精霊の住む場所だったが、魔族の手によって穢され魔物を生み出す泉となった。このまま穢れが溜まり続けると森全体に瘴気が広がり、人の街を脅かすだろう。


うわ、ヤバイの見つけちゃったな。魔物を生み出すのか…今のところは魔物も居ないし、早めに去りたいところだけど、放っておくのもなぁ〜。


うーん、浄化出来たら解決するよね?たぶん。浄化かぁ。浄水器?浄水場?いや、流石に機械的なモノはダメだろ。そういや、昔じーさんが変な小石をボトルに入れてたな。水が綺麗になるとか何とか。結局は詐欺みたいな話だったけど、ココなら作れるんじゃね?


そうと決まれば、魔力を手のひらに集めていく。ギューッと圧縮してソフトボール大の水晶のような石を作り出した。泉の規模を考えると、とりあえず5つくらいあればいいかな?石の名前は『浄化石』と名付けた。

周囲の穢れを吸い取って浄化し、容量いっぱいまで吸い取り終わったらそのまま土に還る使い切りのアイテムだ。


5つの浄化石を偏らないように泉に放り投げる。これで浄化されるだろ、しばらくしたら様子を見に来よう。


泉の場所をナヴィに覚えてもらって、冒険者ギルドへ戻る。受付で報告を済ませて帰ろうとしたら受付の奥から出てきた女性に呼び止められた。あれ?あの人どこかで…


「呼び止めてごめんなさいね。少しいいかしら?」

「あっ、はい。何かありました?」

「えーと、ここじゃ何だから上の応接室へ行きましょうか」

「わかりました」


案内されたのは二階の応接室だ。普段は二階エリアは見えない壁で封鎖されているが、クエスト等を受けるとここまで来れるらしい。目の前の女性…GMロサリアさんがそう教えてくれた。ちなみに、悪いことをしても呼ばれるんだとか。ブルブル。


「ロサリアさんはココで何をしてたんですか?」

「GM業務の一環なのよ。こうしてNPCに混ざってプレイヤーの見守りやサポートをしているの。…あ、内緒よ?君には顔がバレてるから教えちゃうけどね〜」

「はは…誰にも言わないようにしておきます」

「そうして頂戴。あ、そうそう。キミに報告があるんだよね。この間の不具合について。」

「あぁ、どうでした?」

「それがね、こちら側のシステムは問題なく稼働してるようなの。ヘッドセットも同様にね。…つまり、問題点は見つからなかったの」

「えぇ…そうなんですか?」

「こちら側からも設定を確認していたのだけど、デフォルトの設定のままなのよね。一応書き換えはしておいたから機能はすると思うわ。こんな返答になってごめんなさいね」

「いえ、それは構わないんですが…他に問題点は見つからなかったんですよね?」

「えぇ。…もしかして他にも不具合が?」


ロサリアさんにログアウト出来なかったことと、アラームが機能しなかった事を報告すると、ロサリアさんは真剣な顔をしながら考え込んだ。


「ちょっと、今からリモートアクセスしてみるわね…」

「はい、お願いします」


ロサリアさんが目を閉じて動かなくなった。無言の時間が続く。

…どれくらい経っただろうか。ロサリアさんが目を開いた。


「うーん、どこも異常は見当たらなさそうだったわ」

「そうなんですか?」

「あの一軒家が空くのはもう少し後の想定だったんたけど、思いの外早くてびっくりしちゃったわ。もしかしたら、その関係だったかもしれないわね」

「そうですか…あの家そのまま住んで問題ないですか?」

「もちろんよ!実装済みなんだから、遠慮なく使ってちょうだい!」

「ありがとうございます。それを聞いて安心しました」


とりあえず、問題は解決…かな?

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