7.街の外れの小さな家

お婆ちゃんに案内された室内は、木の落ち着いた雰囲気が心地良い部屋だった。室内は最低限整えられた感じだったが、センスが良いのか、掃除上手なのか綺麗にしてある。他にも部屋はあるらしいが、そこまで手が回らなくて…と眉尻を下げながら話してくれた。

お婆ちゃんがお茶を入れようとするのを手伝って、三人でテーブルに付く。口に含んだお茶は香ばしくてとても美味しかった。


「…あらぁ、今はどこも部屋が足りていないのねぇ」

「そうなんッスよ。サイアク野宿かなーって話してたんス。しばらくしたら部屋も空くとは思うんスけどねー」

「それなら、この家はどうかしら?」

「えっ?」

「ほら、私の脚がこうでしょ?息子夫婦が心配してね…一緒に住まないかって言われてるのよ」

「そうなんスね!確かに、息子さん達もその方が安心だろうし、お婆ちゃんも誰か一緒に居たほうが良いっしょ」

「そうなの。ただね、ここを空き家にしてしまうと、あっという間に家が悪くなってしまうでしょう?」

「確かに、人の住まなくなった家ってすぐに劣化していきますからね」

「もう住むことは無いかもしれない場所だけど、家を壊したくなくてねぇ。ここはお爺さんと過ごした家だから」

「なるほど…でも、そんな大切な家をボク達に譲って良いんですか?ついさっき会ったばかりなのに」

「ふふ、こんな街の外れまでお弁当を届けてくれたし、こんなお婆ちゃんと一緒にお茶してくれる優しい冒険者さんですもの。貴方達さえ良ければだけど、是非貰って欲しいわ」

「こちらとしても、ありがたいです。是非お願いします!」


なんと、家ゲットだぜ。タダで貰うわけにはいかないが俺たちも手持ちが無い。お婆ちゃんも息子さんも無償で譲ると言ってくれたが、申し訳なさすぎるので、お婆ちゃんの引っ越し手伝いや引っ越し先の息子さん夫婦の家の手伝いをする事にした。


話の流れで息子さん夫婦の家で、手料理を振る舞ったら大変喜ばれた。料理のお礼にと、この世界のレシピをいくつか教えてもらえた。ちなみに、この時に料理スキルが開放された。棚ぼたである。


お婆ちゃん家の引っ越しは、ゲーム内時間で5日ほど掛かった。その間ログアウトはしないでお婆ちゃんの家で寝泊まりさせてもらう。ゲーム内で寝るってのも変な話だが、ログアウトするのが面倒だったってのが大きい。カゲもいるしアラームも鳴っていないので問題ない。ちなみに、この世界の一日はリアルで2時間ほどだ。


「よし、これで最後だね」

「こっちも全部運び終わったッスよー」

「まぁまぁ、すっかりお世話になっちゃって…本当にありがとうねぇ」

「こちらこそ!あの家大切に使わせてもらうね」


お婆ちゃん達と別れて、我らの拠点へ向かう。二人共、心なしか足取りが軽くなる。

家へ向かう途中で、お酒と食べ物も買っておいた。

街の外れの小さな我が家。引っ越し作業と同時進行で庭の手入れと、家屋の修理もしておいたのだ。明かりの灯った我が家のドアを開けると、ドタバタと足音が聞こえてきた。


『ただいまだよー!』

『ご主人様、おかえりなさいだす』

『おかえりなさいませ、お部屋のお支度は済んでおりますよ』

『おー、ダンナァ!待ちくたびれたぜー!』

『こら!お前達まずは部屋へ案内せぬか!』


精霊たちである。先に喚んでいたナビゲーター精霊のナヴィと神獣フェンリルのシルバの他に、モノ作りの得意なドワーフのドフィ、庭の管理をしてもらうノームのムート、ハウスメイドの屋敷妖精スレアだ。


彼らのお陰で、引っ越し作業と同時進行で家の整備が出来たのだ。他人の前では自重するが、カゲとお婆ちゃん達家族しか見てないからな。夢のスローライフが近付いてくるぜー!


「いやー、こんな早く我が家が持てるとは思わなかったッス!パイセンまじ豪運!女運が壊滅的なだけあるッスねー」

「うるせ〜。女運は余計だっつーの」


酔っ払ったカゲが、ヘラヘラ笑いながらつついてくる。女運なー。こう見えて彼女や婚約者がいた時もあるんだぞ。まぁ、そのすべての女性に浮気されたり貯金持ち逃げされたり薬盛られて男に売られそうになったりしたけどな。恋愛関係以外では、会社のお局に妙に気に入られて、お局の不倫相手だった課長に睨まれて大騒動に発展したり、後輩の女性社員同士で俺を巡って揉めたり、社外では変な奴に付け回されたり…ほんと、碌でもないな。なんせ、母親もアレだったからなー…うん、やめよう。せっかくの楽しい気分が台無しだ。


「まぁ、パイセンはそのままで良いと思うッス」

「…どういう意味だソレ」

『ダンナー!酒が足りねぇ!』

『ドフィさん、飲みすぎですよ!』

『オラのやつ、飲むだす?』

『ムートよ、それはソナタの分だ。ドフィを甘やかさずとも良いぞ』

『ふぇ〜、もう食べられないよ〜』


こうして、賑やかな夜はふけていった。

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