6.噂の妖精少年と普通のおじさん
「ところで、妖精少年って何だ?」
「何スかね?妖精連れてるから?」
「あー、ナヴィが目立ってたのか」
「可愛いが可愛い連れてりゃ、相乗効果で更に可愛いッスから」
「ごめん、ちょっと良くわからない」
カゲの可愛いもの好きは、時々反応に困るんだよな。まぁ、助かったから良いか。
「んー、なんか掲示板に書かれてるっぽいッスね」
「へ?」
「『妖精を連れた少年が始まりの街に居る』『何かのクエスト用NPCか?』『銀の髪で、とにかく可愛いかった!また会いたい』『見つけたら情報求む』…あちゃー、ヤバイッスね。探されてるッス」
「うへぇ…」
「変装出来れば良いんッスけどねー」
「変装…ソレだ!!」
カゲの言葉で思いついたのは、『変化の腕輪』だ。装備したものの姿を変える腕輪で、三種類くらいの姿を登録できる。
変化した姿は、カゲと同じ獣人だ。焦げ茶の肩まで伸びた癖っ毛はナヴィが隠れるのに丁度いい。口元を隠すようなデザインのローブを纏っているが、このローブは名前を知っている人からは認識されにくい魔法を付与してある。創造魔法で造ったものだ。
カゲは獣人の中で一番高い身長で、リアルと同じ185センチ。薄藍の髪に金の瞳。クセのない肩まで伸びる髪を後ろで結んでいる。コイツほんとイケメンなんだよな…悔しくなんかないぞ。
「いやー、見事ッスね。違和感無いッス。身長も顔もリアル寄り?顔が隠れるのは残念ッス」
「顔は隠れたほうが良いだろ…あんな目に合うのは嫌だし」
「ローブがあれば良さそうッスけどねー」
「念には念をだよ。面倒だが、落ち着くまではこのスタイルだなー」
「とりあえず、掲示板に『妖精少年捕まえたPCがGMに連れて行かれたぞ』って書いておきました。あとは勝手に自重するんじゃないッスかね?」
「サンキュ」
「パイセンを愛でる権利は誰にも渡せないッスよ〜」
はー、普通に歩きたいぜ。しかし、妖精少年と勝手に呼ばれてるが、中身は普通のおじさんだからなぁ。あの女性も、それを知ったらどんな反応するんだろうか。…とここで重大な事実に気が付いた。
「そういえば、このゲームって許可したPC以外からの接触不可じゃなかったっけ?」
「最初の設定ではそうッスね。接触も段階分けされてるし、対象も変更可能ッス。何も設定してないなら異性PCは触れないッスよ」
「俺は設定いじってないからデフォのままなハズなんだけどさ、俺の事掴んでたよね?あの女性」
「…そういや、そうッスね。あれ、パイセン性別何になってます?」
「えっ、普通に男性だと思ってたけど…んん??性別不明になってるな?」
「マジで?!パイセン男で設定しなかったんッスか?」
「いや知らんし…提出したデータも男になってるハズなんだけど」
これも種族が関係しているのだろうか?何にせよ接触設定変えないとな。
さて、設定メニューは…
「あれ?」
「どうしたッス?」
「項目が無いな」
「えっ?」
「バグかなぁ…まぁ、いいや」
「良いんッスか…」
とりあえず、変化の腕輪と認識阻害のローブの性能を試しがてら二人で借りられる部屋を探しに冒険者ギルドへ向かう。周りの様子を伺ってみたが、俺を気にするようなプレイヤーは居なかった。カゲをチラチラと見る女性プレイヤーはいたけれど。
「今はどこも満室ですねぇ〜」
「マジかぁ〜」
出遅れた…完全に。どうやら、皆も同じようにこの街を拠点にするようだ。しかし、部屋が借りられないのは困ったな。
仕方ないので、街をウロウロとしながらお遣いクエストを進めることにした。
まずは、あの露店のオッチャンのトコロへ向かう。野ウサギ肉の納品を何度か繰り返したら、別のクエストが発生していたのだ。
「それじゃ、頼んだよ!」
「おー、任せといて〜」
オッチャンの依頼は、『住民街の外れにあるお婆さんの家にお弁当を届ける』というもの。店の常連さんらしいが、足を悪くして買い物が難しくなってしまった。そこで、オッチャンが時々お弁当を届けているらしいんだが、仕入れ業者が来る時間と被ってしまい、今日の分を届けられなくなったらしい。
オッチャンから場所を教えてもらって、カゲと二人で街のハズレへ向かう。住民街にはPCの姿がないので気が楽だ。人目もない事だし…と変化を解除して住宅の間を歩いていく。
しばらくすると、住宅街から離れたトコロに一軒の小さな家がみえた。庭もあるが荒れていて、門扉も壊れている。手入れが行き届いてないのがすぐにわかった。
「ここかな?すいませーん!クレアさんいらっしゃいますかー?」
扉を叩いて声をかけると、中から女性の声が聞こえた。しばらく待つと扉が開く。どうやら足が悪いせいで移動に時間がかかるようだった。
「えぇと、どちら様かしら?こんなお婆ちゃんに何のご用?」
「あ、ボク達お遣いで来たんです。露店のオッチャンからお弁当を預かってきました」
「あらまぁ!わざわざありがとうね。オッチャさんはどうしたんだい?」
「オッチャ…んは、店にお客が来てて手が離せなくて。時間も掛かりそうだからオレ達がお届けに来たんスよ」
「あらぁ、そうだったのね。…良かったらお茶していかない?丁度お茶を用意していたのよ」
「えぇと…」
「一人暮らしで、最近は外にも出かけられなくてねぇ。話し相手になってくれると嬉しいのだけど」
「オレはいいッスよー。急ぎの用も無いし」
「それじゃ、お言葉に甘えます」
「ふふっ、嬉しいわぁ。さ、こちらへどうぞ」
そうして、俺達はお婆ちゃんの家へ招かれた。
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