「給食がなくなる」夏休みの困窮世帯の不安 一袋20円のうどんに草を分け合い、冷房もない
子どもたちが待ちに待った夏休みが始まった。しかし、生活が困窮している家庭の子どもたちにとっては、学校給食がなくなることで栄養不足に、電気代を抑えようと冷房を使えない自宅では熱中症になりかねない「危険」な夏でもある。「無事に乗り切れるのか」「命の危険にさらされている」と、困窮する子育て世帯を支援する人たちは警戒している。
「物価高騰と猛暑で、困窮家庭のお子さんたちは大変な目に遭っています。食費を削るのが第一で、次に電気代。でも、この気温では、エアコンを使わなければ家の中で熱中症になりかねない。そういった心配を抱えながら生活されている方がほとんどです」
困窮する子育て世帯を支援する認定NPO法人「キッズドア」のファミリーサポート担当、渥美未零さんは、そう話す。
育ち盛りの4人の子どもを育てる西日本在住の40代の女性から今月、キッズドアにメッセージが届いた。この女性は病気のために働きたくても働けず、川岸で採ってきた草を入れた1袋約20円のうどんを分け合って、1日1食もしくは2食で過ごしているという。
キッズドアが今年5~6月に実施した調査によると、回答した1538世帯のうちの約6割が、2023年の収入(予測)を200万円未満とした。回答者の9割が母子世帯だ。
6月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、前年同月比3.3%上昇。特に「生鮮食品を除く食料」は9.2%も上昇し、約1年前から高止まりの状態が続いている。一方で困窮する子育て世帯の多くは全く賃金が上がっておらず、実質賃金は低下している。
渥美さんは「物価高騰で、これまで積み立ててきた大学への進学費用を取り崩さざるをえない家庭もあります」と話す。賃上げやボーナス、株価上昇などのニュースが流れるたびに絶望的な気分になり、精神を病む人もいるという。
コロナ禍を受けての国や自治体からの支援もほぼなくなり、困窮世帯は今、この3年間で最も厳しい状況におかれているという。
■「給食って本当に神」
キッズドアの調査での回答には、「物価高騰により、食料の質をさらに落とすしかなく、育ち盛りの子どもに栄養不足を感じます。学校の健康診断でも、子どもの痩せすぎで注意を受けましたが、どうしようもない状態です」との「悲鳴」がつづられていた。
そんな困窮世帯の子どもたちが栄養を摂れる重要な機会が、学校給食だ。
女子栄養大学の石田裕美教授らの研究によると、収入が少ない世帯の子どもは欠食の割合が高く、栄養摂取量に対する学校給食の寄与も低収入世帯の子どものほうが高いという。
「給食って、本当に神」
渥美さんも支援を受けている人から、そんな言葉を聞いたことがある。
キッズドアの調査でも、給食がなくなる夏休み中の食事について「不安がある」と答えた人は91%にも上った。「子どもに十分な食事を与えられない」と回答した割合は、2021年の調査では46%だったが、今回は60%に増えていた。
困窮する世帯では、食事は主食に偏り、副食はおろそかになりがちだ。
「食事はご飯にふりかけだけになり、米を買えない家庭ではめん類を食べる。つまり炭水化物ばかりで、タンパク質やビタミンがなかなか摂れない。以前は目玉焼きや卵焼きが食べられましたが、最近は卵でさえ値上がりして気軽に買えなくなった」
と、渥美さんは言う。
ビタミン欠乏に詳しい静岡県立総合病院リサーチサポートセンターの田中清・臨床研究部長によると、最近は栄養バランスの悪い食事による「隠れビタミンB1欠乏症」が静かに広まっているという。豚肉などに多く含まれるビタミンB1は、炭水化物などを分解してエネルギーに変えていく際に不可欠なビタミン。これが不足すると、倦怠感などの症状が表れる。
「体のだるさが抜けない、という保護者の声はすごくある」
渥美さんは、そう指摘する。
「それでも、お母さんは自分の食事を1食にして、『私は水で全然かまわない』と言って、その分を子どもたちに食べさせる。そんな姿を見ていると、『体をこわしてしまっては元も子もないので、お母さんも食べてくださいね』と、お声がけするんですけれど、なかなか難しい」
子どもの服や靴を支援した際、年齢から想像するよりもずっと小さなサイズで申請されているのを見て、子どもたちが必要な栄養が摂れていない現状を痛感するという。
■エアコン使わず保冷剤で
食費もさることながら、困窮世帯は光熱費を削ってしまうことが珍しくない。
「もう何年も冬は暖房をつけていません、という声があるのと同様に、夏でも冷房を使っていない困窮子育て世帯は多いです」(渥美さん)
現在、公立小中学校における普通教室の冷房設備設置率は95.7%(22年9月)。なので、学校にいる間はなんとかなる。ところが、キッズドアの調査では、回答者の64%が「(自宅で)エアコンをつけないようにしている」という。
「エアコンはアパートに備え付けですが、入居してから7年、1度もコンセントを入れたことがありません」
「熱中症が怖いのですが、なるべくエアコンを使わないで扇風機や保冷剤でやり過ごすようにしたい。けど去年も電気代が上がるということで、それをやったら娘が熱中症になり、点滴になったので、うまく考えたいです」
調査の回答には、そんな言葉が並ぶ。
日中は児童館や図書館を利用して暑さをしのぐ子どもたちもいる。
「都市近郊であれば、ショッピングモールのフードコートで1日過ごしたりするお子さんがたくさんいます。でも、地方だと、子どもだけで移動することがなかなか難しい」(渥美さん)
■無関心とバッシング
そんな苦しい家庭の状況にもかかわらず、生活保護を受けていない世帯は多い。
「私たちも生活保護を受けたほうが楽なのではないかな、と感じることがよくあります。でもみなさん、踏ん張って生活している」
困窮する子育て世帯は、
「もう本当にひっそりと暮している、というのをすごく感じます」
と、渥美さんは言う。
一方で、子育て世帯を支援しているキッズドアに対して、「何をやっているんだ」とバッシングするメールが届く。ネット上に支援の記事が出ると、「働かなくて楽をしている」というような非難のコメントが書き込まれるという。
「それを見て萎縮し、SOSの声を上げることを躊躇しながら暮らしている人が大勢いると実感します。ひとり親でも仕事をして税金を納めている人がいるし、すべてのひとり親家庭が児童扶養手当をもらえているわけでもありません。でも、働きたくても病気で働けない人もいる。そういう実態を知っていただきたいと思います」
厚生労働省の「2021(令和3)年 国民生活基礎調査の概況」によると、児童のいる世帯の平均所得金額は、11年の697万円から20年の813万5000円と、16.7%増加している。
一見すると子育て世帯の所得は増えているようだが、この数字を押し上げているのは主に世帯所得が1000万円以上の裕福な家庭。この世帯が占める割合は11年の15.6%から21年には24.8%に増加している。
一方で、21年の年収800万円未満の子育て世帯は全体の59%を占める。つまり、この10年で、一部の富める子育て世帯と大多数の中間層以下の世帯との二極分化が著しくなっているのだ。
「子育て世帯の年収が二極化してしまったので、高所得の家庭の人たちは困窮している子どもたちのことが本当にわからないのだと思います。そのことが無関心やバッシングにつながっているのではないでしょうか」(渥美さん)
「異次元の少子化対策」を掲げる政府。しかし、その足元では、子どもたちを守る最低限のセーフティーネットすら機能していない現実が広がっている。
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