知らない

「はい、これでいい?」


 そう言って、私はUFOキャッチャーで取ったハンカチを結愛さんに渡した。


「うんっ。美月、ありがとう」


 すると、結愛さんは笑顔で、私にお礼を言ってきた。

 ……正直に言うと、その笑顔には少しドキッとしたけど、結愛さんが犯罪者ということを思い出せば、そんな気持ちはすぐに吹っ飛んでいった。

 ……こんな、犯罪まがいなことなんてせずに、そうやって、普通に私に絡んでくれてたら、私も、本当にもしかしたら、結愛さんのことを好きになったかもしれないのに。

 そんな結愛さんの笑顔を見た私は、そう思わずにはいられなかった。

 ……まぁ、普通に絡んでこられたら、こんなデート? みたいなことなんて絶対してないけど。


「約束、守ってよ」

「うん。分かってるよ」


 よし、これで時間を進めてもらえるから、私も、取りたいやつを取ろうかな。

 

「私、あれ取ってくるから」


 そう思って、私は美少女な見た目のフィギュアを指さしながら、そう言った。

 私が見てるアニメキャラのフィギュアだ。

 正直、見た目なんてどうでも良くて、私はあのキャラの頭のおかしい性格が好きだから、あのキャラが好きなんだ。


 そして、私がそのフィギュアのUFOキャッチャーの所に向かおうと、足を一歩踏み出したところで、何故か、結愛さんに腕を掴まれた。


「……何?」


 急な事だったって言う理由と、結愛さんが犯罪者で頭のおかしい人だって理由で怖くて、体がビクッとしてしまいながら、そう聞いた。


「美月、ああいうのが好きな訳じゃないよね? なんで、あんなの取るの?」

 

 ……いや、好きだから取るんだけど。

 そもそも、ああいうのって何? 私は、別に見た目なんてどうでも良くて、ちょっと頭のおかしいような人が好きなんだから。

 ……もちろん、二次元の話しね。リアルでは当然嫌だよ。……いや、もしも、あのキャラが現実に出てきたなら、当然好きになるけどさ。


「人の好きなキャラを、あんなのとか言わないでよ」


 そう。それが一番重要だ。

 私は別に、ガチガチなオタクな訳では無いが、普通に、好きなキャラをあんなの呼ばわりされるのは腹が立つ。

 だから、私は少し不機嫌さを出しながら、そう言って、緩くなってた結愛さんの手を振りほどいて、私はUFOキャッチャーに向かった。


「…………美月のそんな趣味、知らない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る