そうだと分かってても

 結愛さんが帰ってから、私はいつも通り適当に過ごして、アラームをセットして、眠りに着いた。

 結愛さんが約束を守ってくれると信じて。

 

 



 そして、いつも通り、アラームの音で目を覚ました私は、真っ先にスマホを手に取って、日付を確認した。


「戻って、無い」


 結愛さん、約束、守ってくれたんだ。

 ……でも、結愛さんと付き合って、結婚するって約束しないと、もう次の日には進めてくれないんだよね。

 ……そうだと分かってても、私は、同性とは付き合えない、かな。

 

「ま、まぁ、限定キャラも手に入ったし、今日は、学校に行こうかな」


 と言うか、昨日も戻されると思ってたから、昨日は学校に行ってないし。一応、ね。……どうせ今日も戻されると思うけどさ。

 そう考えて、朝ごはんを食べようとベッドから降りて、リビングに向かったところで気がついた。

 そういえば、時間が進んだんだから、あのパン無いじゃん。


 朝ごはんの準備してなかったなぁ。と思って、適当に冷蔵庫を漁ろうとしたところで、インターホンが鳴った。


「はい」


 こんな朝から誰だろう。

 そう思いながら、インターホンのカメラを見ずに、そう言ってしまった。


「美月、迎えに来たよ」


 すると、結愛さんのそんな声が聞こえてきた。

 その瞬間、私はインターホンを切るボタンを押した。


 なんで? なんで、結愛さんがいるの? …………もしかして、昨日みたいに、私が逃げないように来たってこと?

 そう考えた瞬間、私は怖くなって、鳥肌が立ってきたのを感じた。

 そして、思い出した。結愛さんは、私の家の合鍵を勝手に持っていることを。


「ち、チェーン掛けないと!」


 最近、自分を元気づける為に独り言をよく言っていたから、思わずそう言って、私は玄関の扉に向かって走った。

 ただ、察するのが遅かったみたいで、扉の鍵が開いて、結愛さんが中に入ってきた。


「あ、もしかして、私が開けなくても開けてくれるつもりだった?」

「あ、う、うん。そう、だよ。だから、その合鍵、返して」


 返してと言っても、結愛さんが勝手に作ったものだから、私のでは無いけど、勝手に作ってるんだから、そういう権利があるはず。


「うんっ、いいよ」

「え、あ、ありがと」


 すると、そう言って、結愛さんは私に鍵を渡してくれた。

 咄嗟のことで、勝手に作った鍵なんだから、返すのが当たり前のことなのに、お礼を言ってしまった。

 ……と言うか、なんか、普通に返してくれたんだけど。


「言われた通り返したんだから、抱きしめていい?」

「……いや、返すのなんて当たり前の――」


 当たり前のことなんだから、だめに決まってる。そう言おうとしたのに、結愛さんは私の返事を聞く前に、私のことを抱きしめてきた。

 ……まぁ、いいか。合鍵を返してくれたんだから、明日からは……明日、からは……明日、来ないじゃん。


「だ、騙した!」

「え? 何が?」

「明日、来ないんでしょ? 嘘つき」

「嘘なんてついてないよ。鍵はちゃんと返したじゃん」


 私に抱きついてきながら、結愛さんがそう言ってくる。


「確かに、返してはくれたけど、どうせ、明日……は来ないんだから、結愛さんの手に戻ってるじゃん」

「うん。そうだよ?」


 私は結愛さんを引き離そうとしながら、責めるような目でそう言ったのに、結愛さんは私の言葉になんの反応も見せずに、そう言ってきた。


「だから、明日、じゃなくて、また今日に返しに来たらいいんでしょ?」


 結愛さんにそう言われた私は、結愛さんに抱きしめられながら、明日は目が覚めたらすぐにまた、電車とかに乗って結愛さんから逃げようと決意した。

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