人生で初めての

 元来た駅に戻った私は、重い足取りで家に向かって歩いていた。

 結愛さんとキスをして、私のことを諦めてもらう。

 そのためのキス。女の子同士なんだから、ノーカウント。そう思ってるのに、家に向かって足を一歩前に出す度に、ノーカウントとはいえ、好きでもない、しかも同性の子とキスをしたくないという気持ちが出てくる。


 そんな気持ちのまま、足を止めずに歩いていると、すぐに家に着いた。着いてしまった。

 ……結愛さん、もういるのかな。

 そして、そう思いながら、扉の鍵を開けて、家の中に入った。

 すると、綺麗に並べられた靴が目に入った。……もちろん、私のでは無い。

 ……もう、いるんだ。……いや、覚悟を決めよう。これで諦めてもらって、時間を進めてもらうんだ。


「美月、おかえり」


 一度、深呼吸をしてから、私はリビングに入った。

 すると、私の家なのに、我が物顔でくつろいでる結愛さんがソファに座りながら、そう言ってきた。

 

「……早く、しよ」


 私は少しでも早く、私を諦めてもらって、結愛さんに帰って欲しかったから、そう言って、結愛さんに近づいた。

 

「えー、もうちょっと、雰囲気作ろうよ」


 雰囲気なんて、作れるわけないでしょ。

 私は、結愛さんとキスをしたくてするわけじゃないんだから。


「じゃあ、私の方からするから、美月はここに座って」


 私の思いを察したのか、結愛さんはそう言って、座っていたソファから立ち上がった。

 

「ほら、美月? 早く座って」


 覚悟を決めたはずなのに、土壇場になって、キスをしたくないという感情が湧き出てしまい、その場に立ち尽くしていると、結愛さんにそう言われた。

 

「わ、かってる」


 さっさと終わらせるために、私は結愛さんに言われた通り、さっきまで結愛さんが座っていたソファに座った。

 すると、この前みたいに、私を逃がさないように、座っている私に体をくっつけてきて、顔を近づけてきた。

 唇が重なる。そう思った時、思わず顔を逸らそうとしてしまったんだけど、結愛さんに抑えられて、顔を逸らすことは出来ずに、私は人生で初めてのキスを体験した。

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