安くは無いけど
「時間を、進めてください」
私は少しでも、時間を進めてもらえる可能性を高くするために、敬語を使って、そう言った。
「言ったでしょ? 私と付き合って、結婚の約束もしてくれるなら、今日は進めるって」
「そ、それ、以外で、お願いします」
そんな約束、出来るわけない。
確かに限定キャラが消えるのは嫌だけど、女の子同士はもっと無理。
だから、私はそれ以外の条件にしてもらおうと、そう言った。
「……じゃあ、キスして。今回こそ、確かめようよ。美月が私を好きになれるかどうか」
私はまた、無理だと思い、直ぐに断って別の条件を出してもらおうとした。
でも、もし、もしも、私が結愛さんとキスをして、好きになれないと言ったら、結愛さんも諦めてくれるんじゃないだろうか。
だって、結愛さんは可能性があると思ってるから、諦めてないわけで、完全に可能性がないと知れば、諦めてくれるかもしれない。
そうすれば、時間も元通り進み出すし、限定キャラも手に入る。
完璧では? …………私が結愛さんとキスをしなきゃならないことを除いて。
そう。問題はそこだ。
別に、女の子同士の恋愛を否定する気は無い。でも、私は絶対に無理だ。
だから、キスも当然無理だ。……でも、逆に言えば、キスをするだけで、時間を進めてもらえるのかもしれない。
どうしよう。
私がもし、誰かとキスをしたことでもあれば、ここまで悩むことは無かったのかもしれない。
でも、私は幸か不幸か、まだキスをしたことが無い。
つまり、ファーストキスを捨てて時間を進めてもらうか、ファーストキスを残して、結愛さんを説得できるまで、一生今日に閉じ込められるかを選ばなくちゃならない。
「もしかして、悩んでる? だったら、大丈夫だよ。少なくとも、今の美月は女の子同士の恋愛なんてありえないと思ってるんでしょ? だったら、女の子同士のキスなんてノーカウントだよ」
私がどうするかを考えていると、耳に当てていたスマホからそんな声が聞こえてきた。
……ノーカウント。……そう、だよね。女の子同士だもん。ノーカウント、だよね。
それに、今はこんな緊急事態。ノーカウントに決まってる。
「分かった。それでいい」
「美月の家で待ってるね」
上手く口車に乗せられたのかもしれない。
でも、これで結愛さんが私を諦めて、時間を進めてくれるんだったら、安……くは無いけど、まだいい方だ。
そう思って、私は家に帰るために、また、電車に乗った。
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