頭では理解してるけど
学校をサボって、駅に着いた辺りで、電話が掛かってきた。
この前と同じ番号。……結愛さんだ。
私は結愛さんからの電話だと理解した瞬間、電話の音を切って、ちょうど来た電車に乗った。
ほんとだったら、電話に出て、少しでも、時間を進める説得をした方がいいのかもしれない。
でも、少なくとも今は、そんなこと出来なかった。
だって、昨日……と言うか、この前の今日の恐怖がまだ残ってるし、誰にも教えてない電話番号や家の鍵版を知ってるような人だ。電車の音や駅の放送? みたいなので私の場所を特定してくるかもしれない。
だから、出なかった。
考えすぎかもしれないけど、結愛さんにはそれくらいしそうな怖さがあった。
そんなことを考えていたからか、適当に立っていた所の窓に暗い表情をした私の顔が写った。
そんな自分の表情を見た瞬間、私は首を横に振って、思考を切りかえた。
今日は楽しむ! そう決めたんだから、こんな顔してちゃダメだ。
もうここまで来たんだから、どうせ結愛さんは来れない。だから、少なくとも今日は楽しむことだけを考えよう。
そう思った私は、取り敢えず、昨日……いや、もう昨日でいいや。
昨日と同じゲームのガチャを引くことにした。石も復活……と言うか戻ってたし。
昨日とは違う時間帯だし、違うキャラが出るかなぁ。
そうして、適当にガチャを引くと、昨日とは演出が違った。
SSRが確定で出る演出だ。
まぁ、どうせ戻るんだし、と誰か欲しいキャラを祈るでもなく、何も考えずに、スマホの画面をタップし続けた。
すると、出た。出てしまった。限定キャラが。
待って、待って待って待って待って、え、嘘でしょ。ずっと欲しかったキャラが今出るの!? 待って、どうしよう。やだ。戻りたくない。戻させたくない。
私は恐怖心とはまた違った、限定キャラを消したくないという感情で、今度は時間を巻き戻させたくないと思った。
絶対に、やめた方がいい。そう頭では理解しているけど、私は電車を降りて、直ぐにさっきの電話番号に電話を掛けた。
大丈夫。私の位置なんて、バレるはずがないと、放送? みたいなのが掛かってるにも関わらず。
「美月? 今どこ?」
すると、授業がある時間のはずなのに、結愛さんはすぐに電話に出て、そう言ってきた。
「……知らない。それより、時間、進めて」
ただでさえ人と喋るのがあまり得意ではないのに、昨日の出来事での恐怖心から、なんの主語もなしに、要件だけを伝えてしまった。
それに少しだけ後悔したけど、相手は人の個人情報をどうやってかは分からないけど、勝手に調べたりする頭がおかしい女の子だし、別にいいや、とすぐに思いなおした。
「…………もしかして、ゲームでいいキャラでも出た? 美月、ゲーム好きだもんね」
「ッ、なん――」
なんで、私がゲームを好きなのを知ってるの。
そう言おうと思ったけど、やめた。
どうせ、電話番号も知ってる相手だし、そもそも、ゲームは学校でも一人でよくやってたから、知られてても不思議では無いし。
「……そう、です。だから、時間を、進めてください」
私は少しでも、時間を進めてもらえる可能性を高くするために、敬語を使って、そう言った。
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