怖かったから

 ……どこだろ、ここ。

 結愛さんから逃げるのに必死で、しかも、全然知らない道を走ったから、本当に分からない。

  それに、スマホも置いてきちゃったし。

 ……結愛さんがいるところに、スマホを置いてきたの、まずかったかな。……いや、ちゃんとロックを掛けてあるし、大丈夫か。……流石に、スマホの暗証番号までは知らないはずだ。……電話番号を知られてたから、絶対とはいえないけど、仮に、中を見られたとしても、別に見られて困るものなんてないし。


 そんなことを思いながら、私は適当に歩き続けた。

 ほんとはどこかお店とかに入って、時間を潰したかったけど、お金も持ってないし、歩くことしか出来ないから。








 そうやって、歩き続けていると、もうすっかり辺りは暗くなってきていた。

 何度も何度も、もう、ここまで来れば大丈夫。と思ったけど、私は歩き続けた。足が痛くなっても、足がパンパンに脹れてきていても、私は歩き続けた。

 それくらい、家に入られたことが、家の鍵を持っていたことが怖かったから。


「君、大丈夫かい? どこか体調でも悪いのかい? こんな夜遅くに、一人かな? 親御さんは?」


 普段、こんなに歩いたことがないっていうのもあるけど、精神的にもきてるからか、歩き方が変になってきてたみたいで、警察の人に心配そうに、そう聞かれた。

 多分、私の背が小さい方だから、中学生くらいに見えたってのもあるんだろうけど。


「あ、あの、今、何時、ですか?」


 心配してくれるのはありがたいけど、それよりも、私は今の時間が気になって、そう聞いた。

 すると、警察の人は不思議そうにしながらも、親切に教えてくれた。


「今は11時……あ、ちょうど12時に――」


 私は警察の人の最後の言葉を聞くことなく、視界が暗転していった。


 そして、いつものアラームの音が鳴って、私は目を覚ました。

 その瞬間、どうしようもない恐怖心に襲われたけど、それを我慢して、私はスマホで日付を確認した。

 すると、案の定、いつもと同じ日付だった。


「大丈夫。何も、情報が無いわけじゃなくなったんだから。あの警察の人のおかげで、12時にになったら、時間が巻きもどることが分かった。それだけで、一日の情報としては、充分だよ。だから、大丈夫」


 私は自分を元気づけるために、心が壊れないようにするために、深呼吸を挟みながらそう呟いてベッドから起き上がった。

 そして、いつもと同じパンを食べてから、適当な服に着替えて、外に出た。

 少なくとも今日はまだ、学校に行く気は無い。だからといって、家に居ても、結愛さんが来る。だから、今日は電車で遠出することにした。

 だって、どうせ戻るんだったら、お金もいっぱい使って、楽しもう。ゲーセンとか行って、いっぱいUFOキャッチャーとかしてみたいし。


 そうして、心を保つために、私は駅に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る