完全なマッチポンプ
「見つけた」
クローゼットを開けてきた制服姿の結愛さんと目が合って、笑顔で見下ろされながらそう言われた。
「あっ、いや……な、なんで?」
結愛さんは美少女だ。だから、こんな笑顔で見つめられたら、本来ならドキドキするのは普通かもしれないけど、今は違う意味で、ドキドキしていた。……だから、結愛さんになんで家に入れたのかを聞く時の声が上擦ってしまった。
「なんでって、これのこと?」
すると、結愛さんは鍵を手に持ち、それを私に見せるようにして、そう言ってきた。
「そ、それ、合鍵……?」
「うん。そうだよ」
「な、なんで? なんで、結愛さんが、私の家の合鍵、持ってるの?」
おかしい、でしょ。……何度も言うけど、挨拶すらしたこと無かったんだよ? 電話番号だけなら……いや、電話番号も意味わかんないけど、家の合鍵なんてもっと意味わかんないと思うから、私はそう聞いた。
「覚えてたからだよ」
……嘘だ。……だって私、結愛さんに鍵番とか見せたこと無いもん。
「それよりさ、なんで、居留守なんて使おうとしたの?」
「ッ、いや、それは……」
私、別に悪いことしてないと思うんだけど、何故か、そう言ってくる結愛さんの目を見た私は、怖くて、涙がこぼれ落ちそうになってしまった。
「美月、大丈夫だよ。ほら、ゆっくりでいいから、言って?」
すると、そんな私の様子を見た結愛さんは、小さくなって隠れようとしていた私の事を急に抱きしめてきて、頭をゆっくりと、優しく撫でてきた。
「は、離してっ!」
結愛さんのせいでこんな怖い思いをしてるのに、優しく頭を撫でてくる結愛さんが気味悪くて、結愛さんを押しのけた。
何より、結愛さんにこんなに怖い思いをさせられたのに、結愛さんに頭を撫でられて、気持ちが落ち着いていってる自分が気味悪かったから。
すると、結愛さんはいきなり押されたことにびっくりしたのか、尻もちをついていた。
そして、傷ついたような顔をしていたけど、私はそれを無視して、玄関に走った。
そしてそのまま、靴を履いて、私は外に逃げた。
……危なかった。あんなの、完全なマッチポンプじゃん。……でも、一つだけ言えるのは、あれは好きって気持ちではなかった。あれは怖い思いをした時に、優しく頭を撫でられたから、ちょっと安心しちゃっただけだ。……マッチポンプだったけど。
と、ともかく、私は同性は好きになれない。だから、結愛さんと付き合う以外の方法で、時間を進めてもらわないと。
そう思いながら、私は必死に走って、結愛さんから逃げた。
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