挨拶すらしたこと無かったのに

「…………もしもし」


 ほんとは出たくなかったけど、結愛さんが時間を巻き戻してるんだとしたら、少しでも話をして、説得するヒントを得ようと思って、電話に出た。

 

「なんで切ったの?」


 すると、直ぐにそう言ってきた。

 そんなの、怖かったからに決まってるじゃん。だって、電話番号なんて、結愛さんに教えてないどころか、誰にも教えたことないんだよ。……私、友達いないから。


「なんで、電話番号、知ってるの?」

「美月が教えてくれたから」


 ……だめだ。本当に、会話にならない。

 私は結愛さんと、挨拶すらしたこと無かったのに、電話番号なんて、教えられるわけないでしょ。

 

「何回も言ってるけど、私は、同性は好きになれない」

「私なら好きになれるよ」


 ……会話をしようとすることが間違いなのかもしれない。


「もういい。それで、なんの用?」

「最初に聞いた通り、サボりかなと思って」

「……だったら、何?」

「別にサボるのはいいんだけど、それなら、私と一緒にサボろうよ」


 ……なんで、結愛さんと一緒にサボらなくちゃならないの。……今、学校をサボってる理由が、結愛さんのせいなのに。


「少なくとも、結愛さんと一緒にサボるなんて、ありえない」


 我慢しようと思ったけど、ここで我慢したら、いつか爆発しちゃうと思って、私はそう言った。

 

「なんで? なんでありえないの?」


 そんなのっ、あなたが、私のことを今日に閉じ込めてるからでしょ。……こんなことせずに、普通に接してくれたなら、友達くらいには、なれたと思うのに。


「考えたら、分かるでしょ」

「……取り敢えず、いいや」

「? 何が?」

「私も、学校サボる。美月が居ない学校なんて、私の人生と同じで、意味が無いから」


 人生って……そんな大袈裟な。

 まぁ、別に結愛さんが学校をサボろうが、サボらなかろうが、私にとってはどっちでもいい事だから、なんでもいいけどさ。


「じゃあ今から、美月の家に行くね」


 そう考えていると、結愛さんに一方的にそう言われて、電話を切られた。

 ……私の家に行くって、言ってた、よね。……いや、私の家なんて、知ってるはず……無い、とも言いきれない。……だって、誰も知らないはずの、私の携帯の電話番号を知ってたんだから。


「大丈夫、だよ。仮に、本当に仮に、だけど、結愛さんが私の家を知ってたんだとしても、扉を開けなかったらいいだけなんだから」


 そう思って、私はまた、スマホを弄り出した。

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