37
――ゲルマ軍との戦いの後、シグリーズはデュランフォード国へと戻った。
その移動中、オーレに担がれていたラースが目を覚まし、敵国の勝利に湧く国民らの
城下町は
その宴の中にシグリーズの姿はない。
彼女は魔力を使い果たし、疲労で限界がきていたため、城内にある部屋で体を休めていた。
当然シグリーズは宴に参加しなかったため、相棒のアルヴも彼女に付き添っている状態で、楽しみにしていたお酒を飲むのを
「俺だ。入るぞ」
与えられた部屋にラースが一人でやってきた。
ベットから体を起こすシグリーズを見た彼は、そのままで言いと声をかけ、彼女の
ラースは、忠告を聞かずに上半身を起こしたシグリーズを見る。
傷自体は彼女の回復魔法で治っているが、顔色はまるで死人のように青白い。
シグリーズがあまり丈夫ではないことを、ラースは知っている。
精神力や
長年の経験から冒険者として己の非力を補える戦い方こそわかっているものの、そもそも元来タフにできているラースやオーレとは違うのだ。
生まれつきの差は絶対だ。
もちろん鍛えれば体力は
それでよくやっていると、ラースは思う。
「どうしたの急に? 今のあなたは私なんかのところに来る
「そうだよ。城に着いてからずっとシグのことを放っていたくせにさ。今さら顔を見に来たとか言われても興ざめだよ。ほんのちょっぴりだけど、お前のこと見直してたのに」
アルヴはラースに
シグリーズにはラースを
ラースが来れないのも仕方のないことだった。
彼は城に戻ってからゲルマ国に使者を出し、交渉を始めていた。
まずは捕らえた敵将アレキサンダー·ドルフの人質交換に始まり、その他のいろいろな交渉の手続きに追われ、シグリーズに会いに来れなかったのだ。
だが今回雇っただけの傭兵の見舞いと、この後の国を左右する交渉を比べるのはお門違いで、アルヴが怒るのは筋違いというものだろう。
「ちょっとアルヴ。そんな言い方ってないでしょ。ラースは王として、やらなきゃいけないことがいっぱいあるんだから」
そのことをわかっているシグリーズは、プンプン怒る妖精をたしめる。
アルヴもわかってはいるが、それでもシグリーズを
やれやれ、困った妖精だ。
何年経っても子どものままで、いつも感情で動く。
それでもシグリーズは嬉しかった。
口では注意しつつも、女神ノルンに選ばれてから十年以上、アルヴはいつだって自分の味方をしてくれる。
彼女がいなければ、きっとこれまで旅の途中で心が折れていた。
そう思うと、シグリーズは胸が熱くなる。
「で、どうせなんか話があるんでしょ、ラース王。さっさと用事済ませて出てってよ」
「厳しいな、おい。まあ、お前の言う通りだけどな」
背を向けたまま言ってきたアルヴに、ばつが悪そうに頭を
シグリーズが気にせずに話してほしいと言うと、彼は真剣な面持ちで口を開く。
「傭兵のお前に話すことじゃないんだが、ゲルマ国がこちらの和平交渉に応じてくれた」
交渉の末。
デュランフォード国とゲルマ国の和平が決定した。
それも当然の話だった。
ゲルマ国の主戦力というか、ほぼ全勢力であったアレキサンダー·ドルフ率いる騎馬隊は敗退したのだ。
今のゲルマ国に、デュランフォード軍と戦える力は残されていない。
むしろ
現在のカンディビアでは、そこら中で戦争が起きている状態だ。
たとえデュランフォード国を突っぱねても、敗戦で国力が弱まった今のゲルマ国では他の国に襲われる不安がある。
そういう事情から、ゲルマ国は喜んで和平に応じるはずだ。
「そんなつまんない話をしに来たの? くだらない。シグに関係ないじゃん、そんな話」
「ところがそうじゃねぇんだな」
再び
その言い方が気に食わなかったのか。
アルヴはくるりと振り返って、ラースに噛みつくように言う。
「なんだよその言い方。まさかまたシグを戦わせるつもりじゃないよね。こんな状態で戦ったら、いくら回復魔法が使えたって今度こそ死んじゃうよ」
「落ち着けって。別に戦ってくれって話じゃねぇんだ。ただ、
ラースが出したアレクサンダーの名を聞き、シグリーズも身を乗り出して訊く。
「あの人の頼みってなんなの?」
「ああ、それはな。お前の回復魔法で、ゲルマ王を救ってほしいって話だ」
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