21
アレクサンダーがランスを突き出して盾を構えると、彼の後ろにいた騎兵たちが一斉に同じ体勢に変わる。
ラースはそれを見るや
対峙しておいて突然の退却。
「全軍突撃! 何か企んでいるようだが、数はこちらのほうが上! 我らがゲルマ騎馬隊に小賢しい策など通用せんことを、その身をもって教えてやれ!」
総勢四万以上のゲルマ騎馬隊が
左右に並ぶように陣形を組んで、隙間一つ作らずに突っ込んでくる。
その様はまるで炎。
山や城を燃やし尽くすかのように、平原にゲルマ軍の姿が広がっていく。
追ってくる騎馬の大群を見たアルヴは、慌ててラースの耳元で叫んだ。
「ラース! ラースッ! あいつら思っていた以上に速いよ!?」
「ああ、わかってる。だが、それも想定の範囲内だ。あの速度でも俺らには追いつかねぇよ。あとは作戦通りに不意打ちと挟み撃ちで可能な限り兵を
馬を全力で走らせ、味方と共に後退していたラースだったが。
ゲルマ騎馬隊が仕掛けて置いた
「敵はこっちの
ラースの声に応じて、藁の塊からデュランフォード軍が現れた。
デュランフォードの戦士たちは、出てきたのと同時に、近くにいたゲルマの騎兵を飛び蹴りで馬から落とし、
さらにゲルマ軍のほとんどが藁の塊を通りすぎていたため、これでラースの作戦通り挟み撃ちの形になっていた。
突然の奇襲。
そこから後ろからの攻撃。
ゲルマ軍は罠を覚悟しての突撃だったが。
倒されていく味方を見た騎兵たちは、あっという間に大混乱を
「
しかし、敵ながらさすがというべきか。
アレクサンダーの的確な指示で、ゲルマ騎馬隊は持ち直し始めていた。
ランスと盾から腰に帯びたロングソードへと切り替え、超接近戦となった戦場に対応していく。
それでも優勢なのはデュランフォード軍だった。
接近戦、しかも人と馬がせめぎ合う場所では、小回りが聞く格闘スタイルに
騎馬の機動力が
「数で勝っていてもこのままでは不味いか……。聞け、同志たち! 今から道を切り開く! 全員私に続け!」
しかし、アレクサンダーはここでも見事な判断を見せた。
武器を変える指示を出した後、味方の旗色が悪いと見るや間髪入れずに撤退命令を出したのだ。
他の者らと同じくランスから剣に切り替えた彼は、デュランフォード軍の戦士を切り払いながら、仲間の逃げ道を作っていく。
「我が一撃を受ける覚悟ある者は前へ出よ! その全身、すべて灰にしてくれるわ!」
アレクサンダーの振るう剣に
彼自身は魔法が使えないものの、元々魔力を持っているため、独学で武器に魔法の力を込めて振るう技術を覚えたのだ。
これがアレクサンダーが
アレクサンダーの活躍により、ゲルマ軍はデュランフォード軍の包囲を突き進んでいく。
群がってくる格闘戦士たちを蹴散らし、全滅の危機を回避することに成功したが、アレクサンダーの表情は暗かった。
「抜けられたのは半分くらいか……。止むを得まい。全軍、陣まで引き返すぞ!」
再び軍を整えるため、アレクサンダーは生き残った騎馬隊を連れ、ゲルマ軍の陣地まで走り去っていく。
ラースの策でアレクサンダーが失った兵はおよそ二万。
デュランフォード軍も無傷ではないが、これでほぼ兵力差はなくなったといえた。
だが、それでもアレクサンダーは諦めてはいなかった。
次に戦場でまみえるときこそ、デュランフォード軍の終わりだと信じて疑わない。
アレクサンダーは馬を走らせながら思う。
今回はラースの策に破れたが、こちらを全滅させられなかったのは、向こうの落ち度だと。
二度目はない。
藁の塊の罠はもう通用しない。
今度目に入れば、火をつけて出てきたところをランスで
種さえ明かしてしまえば、自分たちゲルマ騎馬隊の敵ではない。
平地での戦い――ゲルマ軍の
もはやデュランフォード軍に残された道は、弓矢に頼った
「ふん、この
鼻を鳴らし、馬の速度を上げるアレクサンダー。
後ろに見えるデュランフォード軍は、すでに果実ほどの大きさまで小さくなっている。
それも当然、所詮人は馬の足には
おそよ半分の兵を失いながらも、アレクサンダーは余裕を持ってゲルマ軍の本陣へ戻れたが――。
「なッこれは!? 一体どういうことだ!?」
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