14

一斉に向かってくるゲルマ軍の騎馬隊。


指揮官であるアレクサンダーを先頭に皆ランスを突き出し、まるで一つのかたまりとなって突進してくる。


その反撃など恐れない動きから、彼らの士気がかなり高いことがうかがえた。


迎え撃つデュランフォード軍は、ラースが馬を降りて地面を踏みしめると、兵たちも王に続く。


騎馬隊を相手に自殺行為だとしか思えないが、誰一人として悲観的な表情をしていなかった。


それは破れかぶれとも違う。


全員これが正しい選択だという面構えを見せている。


「ちょっとなんでみんな馬を降りちゃうんだよ!? ここは飛び道具で牽制するのが定石じょうせきってもんでしょ!? それに武器すら持ってないじゃないし、このままじゃ突き殺されちゃうよ!?」


デュランフォード軍を見てアルヴが叫んだ。


妖精があわてるのも当然だ。


何しろ相手はゲルマ国の誇る騎馬隊で、さらにそれを率いているのは雷撃の通り名を持つアレキサンダー·ドルフなのだ。


いや、たとえ敵がアレクサンダーでなくとも、向かってくる無数のランスを前に馬を降りて空手からてで戦おうとするのを見れば、つい声を荒げてしまうのも仕方がないのかもしれない。


「ちょっと忘れちゃったの、アルヴ。ラースの戦い方」


そんなアルヴとは違い、シグリーズは冷静だった。


彼女はまるで、これからデュランフォード軍がしようとしていることを、わかっているかのような表情をしている。


それもそのはず――。


シグリーズは魔王健在時のときに、ラースと戦った経験がある。


そのときの彼の戦闘スタイルから、デュランフォード軍も同じなのだと彼女は考えていた。


武器を持っていないのではなく、あえて持たないのだと。


「全軍広がれ! デュランフォード軍はもはや格好のまとだ! その心臓に我らゲルマの槍を突き刺してやれ!」


アレキサンダーの声と共に、ゲルマ騎馬隊が横一列に並んだ。


まるで走る壁となった騎馬隊は、馬から降りたデュランフォード軍を目がけて、さらに馬の走る速度を上げていく。


ラースはそんな騎馬の壁の前に歩き出していた。


そんな王につき従うように、デュランフォード軍も歩を進める。


「ランス・デュランフォード! その命もらったッ!」


「いかに四強の一人とはいえ、我らゲルマの騎馬、槍は止められんぞッ!」


向かってくるラースに気がつき、我先にと騎兵二人が飛び出してきた。


ラースはそんな敵を前にニヤリと笑ってみせる。


そして、拳をグッと握り込んで構えをとる。


体の左半分を前に突き出し、反対の右側を引っ込めるスタイル。


その構えをとった途端、突然ラースの体から凄まじい光が放たれた。


「魔力か何か知らんが、この鎧に魔法は通じんぞ!」


「その通りだ! 兵たちの前で無様に死ね、ランス・デュランフォードッ!」


声を張り上げ、ラースを見下ろながら突進してくる騎兵二人。


ゲルマ軍の身に付けている甲冑は、あらゆる魔法を弾く特殊なもの。


いくら凄まじい光をまとい、それを放とうとも恐れることはない。


そう、彼らだけではなくゲルマ軍の誰もがそう思っていた。


しかし、次の瞬間――。


騎兵二人が吹き飛ばされた。


何か巨大な物体に衝突されたように激しく落馬する。


その転がった姿を見ると、身に付けた甲冑が砕かれていた。


ピクリとも動かない騎兵二人を、今度はラースが見下ろしながら言う。


「勘違いしているようだから教えてやる。俺は魔法なんて使えねぇ。お前らが魔力だと思ってたこいつは闘気とうきだ」


ラースは体にみなぎる生命エネルギーをオーラに変えて放つことができる格闘家だった。


その威力は鋼鉄すらも砕き、これまで彼の拳を喰らって立っていられた者はいないとすら言われている。


「やはり一筋縄ではいかないか……。さすが四強の一角に選ばれるだけのことはある」


一斉に足を止めたゲルマ軍の騎馬隊。


アレクサンダーも馬の手綱を引き、思わず声をらす。


ラースは、カンディビア四強が伊達ではないということを、その力でもって知らしめたのだ。


その光景を見ていたデュランフォード軍が声を上げて突進する。


彼ら彼女らはラースのように闘気を放つわけではないが、馬に乗るゲルマ軍へ跳躍ちょうやく


一斉に飛びかかり、敵を後退させていった。


デュランフォード軍は武器こそ持たないが、ラースと同じく両手両足に付けたガントレットとレッグガードでゲルマ軍のランスを弾き、相手を倒していく。


その戦闘スタイルもあって、通常の騎士や兵士が身に付けている鎧よりも軽装なのが特徴だ。


これがデュランフォード軍の戦い方だと言わんばかりに、甲冑姿の男女が騎馬隊を追い返していく。


超近距離による乱戦となれば、騎馬よりも歩兵、さらに殴る蹴るのスタイルのほうが同士討ちもなく戦いやすい。


ラースが騎馬隊を止めたことで、デュランフォード軍の戦闘スタイルがきている状態だ。


「くッ!? これは一度陣形を整えねば……全軍下がれ! 陣まで後退する!」


アレクサンダーが指示を出すと、ゲルマの騎馬隊は一斉に下がっていった。


追撃をしようとデュランフォード軍の全員が馬に乗るが、ラースはそれを止め、城に戻ると声をかける。


その戦いぶりを見ていたアルヴが唖然あぜんとしていると、オーレは豪快に笑い出す。


「ガッハハハ! どうですかな、儂らが王ラース様とデュランフォードの勇士たちの戦いぶりは! シグリーズ殿も妖精殿も驚いたでしょう!」


このじいさん、まさかアルヴの姿が見えていたのか?


シグリーズとアルヴが言葉を失っていると、老騎士は振り返って言う。


「これは失敬。妖精殿の姿は見えんが声はしたものでな。ラース様から話は聞いているので、シグリーズ殿が妖精をお供にしているのは知っておるのですよ。では、儂らも城へ戻りましょうぞ」


オーレはアルヴの存在について話すと、城門へと入っていくデュランフォード軍に続き、シグリーズたちと城へと戻った。

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