11
門番がシグリーズの姿を確認すると、
シグリーズは気の抜けた顔で頭を下げ返すと、城の門が開いて、侍女を数人
「待っていましたぞ! シグリーズ·ウェーグナー
大男は老人だった。
ラースよりも大きい巨大な岩を思わせる体格にフルプレートの
背筋が伸びた体は、けして年齢を感じさせない屈強な騎士といった容姿だ。
しかも、老人が連れている侍女たちも女性らしい小間使いの服を着ているが、皆、平均的な男性よりもガッチリとした体格をしていた。
「いきなり名乗らずに失礼。
「は、はぁ……。ご丁寧にどうも……」
ため息なのか返事なのか、その中間のように覇気のなく答えたシグリーズ。
オーレと名乗った老騎士は、そんな彼女に向かってガハハと笑うと、早速城を案内すると言った。
どうやらこの豪快な老人は、ラースに言われて案内人を頼まれたらしい。
それと、やはりというべきか。
先ほどの挨拶からして老騎士にも侍女たちにも、アルヴの姿は見えていないようだった。
シグリーズは乾いた笑みを返しながら、オーレに連れられて城へと入った。
まず彼女の目に入ったのは、花が多く見える庭園だ。
ラースが王ということであまり彼のイメージには合わなかったが、案外花や木々が覆っている光景が好きなのかと思うほど、庭の手入れは行き届いてる。
そこには多くの兵士の姿があり、男女問わず鍛え抜かれた体をしていた。
「みんな強そうだね。そういえば昨日の夜に見た人たちも全員大きな体してたっけ」
アルヴがシグリーズに耳打ちするように言った。
シグリーズは言われてみればと、昨夜のお祭りのような光景を思い出す。
住民たちは老若男女の誰もが筋肉質で、しかも今案内をしてくれているオーレのように快活だ。
それがデュランフォード国の気質なのかとシグリーズが思っていると、城へと入った
「では、お召し物を着替えていただこうか。おい、お前たち、シグリーズ殿を部屋へ」
「へッ? いや、私は甲冑とか身に付けない戦闘スタイルなので、服の下には
「おぉッ! さすがは若、いやラース様が選んだお方だ。服の下には鎖帷子とはな。このおいぼれ、気がつきませんでしたぞ」
オーレはシグリーズの言葉を
こちらの言い分など聞く気もなさそうだったので、シグリーズは多少強引に侍女たちから逃げようとしたが、凄まじい力で体を掴まれ、そのまま運ばれてしまう。
「いやいやオーレさん!? 話を聞いてますか!? 私に着替える必要なんて――ッ!?」
「ちゃんと聞いてますぞ、シグリーズ殿。しかし、ラース様の妻となられる方がいつまでもそんなみずぼらしい格好では、儂らデュランフォード国の恥になりますので、用意したドレスに着替えていただく」
「えッ!? ドレスってちょっと!? あぁぁぁッ! 全然振りほどけない! オーレさん! 大体ドレスなんて着たら戦場に出れないでしょ!? 私は傭兵としてこの国に来たんですよ!」
「何を遠慮しているのですか。シグリーズ殿にはラース様や皆と会う前に、今よりも綺麗になっていただきたいという儂らからの気持ちです。どうか気にせずにめかし込んでください」
「話を聞けぇぇぇッ!」
城の廊下で
アルヴはなにがなんだかわからず、というか完全に
そして部屋へと連れ込まれそうになったとき――。
突然、庭園から男の声が聞こえてきた。
「敵襲! 敵襲ぅぅぅッ! 城壁の前にゲルマ国の兵が迫っています!」
その知らせに侍女たちの力が緩んだことで、シグリーズは彼女たちの手から逃れた。
どこへ逃げようかとシグリーズが城内とキョロキョロしていると、廊下の奥からラースの姿が見えてくる。
「出撃だ! 動ける者は俺について来い!」
シグリーズと侍女たちの横を通っていくラース。
すれ違っても彼の目にシグリーズの姿は入っていなかった。
ただ前だけを見て、兵を引き連れて城を出ていく。
城内も慌ただしくなり、廊下に兵士たちがごった返したことで、シグリーズたちも人の波に飲まれた。
「どうする、シグ? なんか戦闘が始まりそうだけど」
「そんなの決まってるでしょ。私は傭兵としてこの国に来たんだよ。まだ正式に
「だよね! さすがシグ! そう来なくっちゃ! よし、あたしたちも行こう!」
シグリーズとアルヴは人の波をかき分けて、先に城を出ていったラースに続いた。
侍女たちは出て行ってしまったシグリーズを見つけると、彼女を止めるべきかとオーレに訊ねる。
「ガッハハハ! 良きかな良きかな! それでこそラース様を変えた女よ! 儂も行く。お前たちは城のほうを頼むぞ!」
老騎士は飛び出していったシグリーズを見て大笑いし、自分も彼女やラースに続くと声を張り上げた。
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