10
――朝になり、シグリーズはアルヴと共に城へと向かっていた。
その道中、テーブルなどは片付けられていて、昨夜の盛り上がりが
道行く人たちの顔も心なしか、緊張感のあるものに見えた。
あと昨日は夜だったので気づかなかったが。
デュランフォード国の城下町から城までの道は、かなり入り組んだ構造になっていた。
いくつかある大通りはどれも同じ建物の並びになっていて、それらを繋ぐ細い
これが元々なのか、はたまた戦時中の特別仕様なのかはわからないが。
シグリーズとアルヴは、目の前に見えている城に、なかなかたどり着けなかった。
「なんだよこの街は!? まるで迷路じゃないか!
「ハハハ。そ、そうだね……。意地悪だね……。ホント、よくわからないや……もう……」
心ここにあらずといった様子だ。
それも無理もないことだった。
昨夜いきなり依頼人であるラースが部屋に現れたと思ったら、これまた急にシグリーズを呼び出した理由を話した。
「おいシグリーズ。俺はお前を
それは、彼女を自分の国であるデュランフォード国の
その後、詳しいことは明日に城で話すと言い、ラースはシグリーズたちの泊まる部屋から出ていった。
それから彼女は、ずっと今のような放心状態になってしまっている。
「ねえ、シグ。あんな奴の言ったことなんて気にしなくていいよ。いきなり嫁にするために呼んだなんて、どうせからかっているだけって。真に受けるだけ
アルヴはラースとシグリーズが結婚するのが嫌なようで、相手にするなと言い続けている。
しかし一人の男性として、ラースのことを客観的に見てみると――。
スッキリとした短髪に
背は高く、
その
さらに彼は一国の王でもあり、これは多くの女性が
どうもアルヴだけではなく、シグリーズの様子からしても、彼女たちの過去に
「それもあるんだけど。私、傭兵としてこの国に呼ばれたと思ってたから……」
「思ってたから?」
小首を
「てっきりラースに実力を認めてもらってたと……勝手に思っていてね……。やっぱりそんなことなかったんだっていう気持ちとか、いろいろ……。もう自分でもよくわかんなくなっちゃった……。ハハハ……」
「もうっしっかりしてよ、シグ! ラースの奴には嫁になんてなってやるか! って突っぱねやって、呼び出した理由がそれだけなら、
「でも、見つかるかな……。私、女神から
人間というのは、本当にどうしようもなくなると笑うしかなくなる。
アルヴは今のシグリーズを見て、以前に女神ノルンに教えてもらったことを、頭ではなく体験して理解した。
彼女は実際よくやっている。
魔王が十八歳の青年アムレット·エルシノアに倒される前――。
女神から選ばれた者として
それから約十年間、魔物や人間同士のいざこざで戦い続け、誰にも知られることもなく冒険者としての人生は終わった。
その後、元パーティーの仲間たちからは現在の自分を否定された。
もういい歳なんだから安定した仕事をしろとか。
年頃の女なんだから男の一人でも見つけて結婚しろだとか。
彼らは世間的には正しいのだろう助言をしてきた。
幸せとはそういうものだと、それこそ魔王から世界を救う勇者にでもなったかのように、我々は間違っていないと口撃したのだ。
その時点で心が折れ、彼らの言う通りに生きようとしてもおかしくない。
それでもシグリーズは、まだ傭兵を――自分の進みたい道を歩いている。
だが、今回はこれまでの積み重なってきた辛いことや、ラースに認めてもらっているという期待(冒険者としての実力を)、他にも彼に突然結婚を言い渡されるなどいろいろ心をかき乱されてしまっていた。
なんとか
いつもの調子で声を荒げて応援しても、具体的に前へ進むための案を出しても、今のシグリーズにはきっと届かない。
長い付き合いだからわかる。
シグリーズはかなり追い詰められている。
(もしノルンさまだったら、シグを元気にするようなこと言えるんだろうけど……。うぅ……あたしってば無力……)
なんだかアルヴまで落ち込んできていた。
結局、彼女はシグリーズに言葉をかけられず、気がつけば二人は、ラースのいる城へとたどり着いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます