09
シグリーズが思わず身構え、アルヴのほうは彼女の背後に
「久しぶりだな、シグリーズ」
そんな二人に気さくに声をかけたラースは、持っていた布袋からパン、チーズ、果物、干し肉、そして何本かのワインの
それらを
「それとそっちの小さいのは、確かアルヴとか言ったか。お前ら、思ったよりも早い到着だったな。明日の昼ぐらいになると思っていたが」
ラースにはアルヴの姿が見えている。
彼は、シグリーズが世話になっている酒場の女主人――ドルテ·ワッツと同じく、妖精が見える数少ない人間の一人だ。
アルヴはそれが気に入らないが、見えるものはしょうがない。
身構えたままのシグリーズに気がつき、ラースは言葉を続ける。
「どうした? 早く食えよ。せっかくのメシが冷めちまうだろ」
「あぁ、そうだね」
シグリーズがベットに散らばった食材に手を伸ばすと、アルヴは慌てて彼女のことを止める。
「ちょっと待ったぁぁぁッ! ダメだよ、シグリーズ! これには毒が入ってるかもしれない!」
「えッ?」
一方でラースは、クククと肩を
小馬鹿にされたと思ったアルヴは、今にも
そんな彼女にシグリーズが言う。
「いや、さすがに毒なんて入ってないでしょ。大体ラースは私を
「だからそれは
アルヴは背中に生えた羽で宙へと飛ぶと、ビシッと人差し指を立ててラースに突きつけた。
笑いを堪えていたラースは口角を上げながら、アルヴのほうへ顔を向ける。
「毒か。考えてもみなかったな。お前は相変わらず頭が良い。今後の参考になるぜ」
「うぐぐ……。その言い方、完全にバカにしてるでしょ……あんたぁぁぁッ!」
敵意むき出しのアルヴを見て、ラースはさらに嬉しそうに笑った。
そんな二人を見ていたシグリーズも、さすがに肩の力が抜けてつられて笑ってしまう。
「はぁ、嫌われたもんだな、俺も。まあ、昔のことを考えたらしょうがないとは思うが」
「まあ、アルヴはとりあえず放っておいて……。どうしてわざわざ私のところに来たの? 宿屋の人に聞いたんだろうけど、別にそんな急ぐ必要はなかったんじゃない?」
「確かにな。別に急ぐ必要はなかった。まあ、食えよ。今から簡単に話をする。毒が心配なら俺も一緒に食うからよ」
ラースはシグリーズのベットに座るように言うと、自分も腰を下ろした。
そして、シーツの上に転がっているリンゴを一つ手に取ると、それを口へと運んでかじる。
それからパンやチーズ、干し肉を頬張り、ワインの瓶を開けてそのまま飲み始めた。
袋から出されたチーズや肉の匂いが、さらに部屋中へと広がっていく。
アルヴはラースが食べる姿を見て、よだれを垂らしてしまっていた。
空腹である今の彼女とって、見ているだけで目の毒だ。
シグリーズはそんな妖精を見ると、ため息をついてから声をかける。
「毒は入っていないみたいだけど。どうするアルヴ? 私は食べようと思ってるけど」
「うぅ……食べるよ! 食べるに決まってるじゃん! あぁぁぁもう! マジでムカつくぅぅぅッ!」
アルヴは、こうなれば
自分と同じくらいの大きさのパンや果実、チーズ、干し肉を、まるで
心なしか泣いているような顔だ。
「チクショー!
「もう、そんなに慌てて食べるからだよ。もっとよく
その様子は姉妹か母と子か。
ラースは満足そうに彼女たちを
何か勢いでもつけようとしている飲みっぷりだ。
「ぷはー、今夜の酒は最高だ」
「それってどういう意味?」
「あん? そのままの意味だよ」
何やら含みのある言い方をしたラース。
一気にワインを飲んだせいか、彼の顔はほんのり赤くなっていた。
シグリーズはラースに訊きたいことがたくさんあった。
彼女はけしてアルヴのように、彼が過去の因縁から罠を仕掛けて呼び出したとは思っていなかったが。
どうしてドルテの店まで調べて連絡を取って来たのかがわからない。
傭兵ならば他にも多くいる。
さらにシグリーズは傭兵団のように大人数ではなく一人(妖精を連れてはいるが)。
効率で考えたら割に合わないと思うのだが。
「ねえ、ラース。あなたなんで――」
「おいシグリーズ。俺はお前を
「え……? えぇぇぇッ!?」
聞こうとしていた答えは、シグリーズの予想を
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