08
それからラースからの手紙を確認してもらい、シグリーズは城下町へと入った。
取り調べ中の兵士たちが、
デュランフォード国の城下町は、すでに夜も遅いというのに人で
何かお祭りでもやっているのだろうか。
通り道には大きなテーブルがいくつも見え、その上には派手さこそないものの皿に乗った肉料理や赤ワインが置いてある。
それらを楽しみながら住民たちは皆笑顔で
戦争中のこの国がどうしてこんな浮かれた状態でいるのだろうと、シグリーズはまた
「はぁ、肉……肉がある……」
「まいっか。ちょっと遅くなっちゃったけど、私たちもごはんにしよう」
シグリーズは、目の前に並ぶ肉料理にもだえるアルヴを見て、今は食事を取るのを優先することにした。
敵であるゲルマ国から攻撃を受けているとはいっても、住民たちがこれだけ明るいのは良いことだと、彼女は覚えた違和感に
しかし、よそ者である自分たちが、勝手にテーブルの料理やお酒を口にしていいものか。
前もって金銭を払っている可能性もあると、シグリーズは外で盛り上がっている民たちの間をすり抜けて、どこか食事が取れるところを探した。
もうお腹が減りすぎて限界が来ていそうだったアルヴには悪いと思いながら、やはり盗人のような真似はしたくないと、
「いやー実にめでたい!」
「ホントよね! なんてったって王さまのお
飲み食いをしながら楽しそうにしている声を聞くに。
どうやら皆、この国の王であるラース・デュランフォードが妃を
アルヴもその話を聞いていたようで、ぐでーとだらしなく屈したままシグリーズに声をかけてくる。
「あいつが結婚? そんなのそれこそ女神さまのような人じゃないと無理じゃないの……」
「確かに、良い
「それでもラースと暮らすなんて、奴の
「でもさ。国の人がこんなに喜んでいるんだから、結構良い王さまになってるんじゃない? じゃないとこんな夜までお祭り騒ぎしてないでしょう」
それから食事と寝泊まりできるところを見つけ、シグリーズたちは店へと入った。
一日中移動して疲れていたのでともかく今夜はもう休みたいと、彼女たちは宿の男主人に部屋に料理を運んでもらえるように頼む。
「お部屋でお食事を取るということでよろしいんですね? 料金は前払いになりますけど」
「はい。お願いします」
「では、お名前を記入してください」
シグリーズは言われるがまま宿帳に名前を書くと、主人がギョッと両目を見開く。
だが、今の彼女にはそんな態度を気にする余裕はなく、早々に言われていた部屋へと入っていった。
部屋はベットと外套をかけるワードローブがあり、窓がある一般的なものだった。
冒険者パーティーが泊まるというよりは、数日の
シグリーズは背負っていた荷物を下ろし、ベットに腰を下ろして料理を待っていると、何やら部屋の外から声が聞こえてくる。
「おい、大変だ! こいつは急いで王宮に知らせないと!」
先ほどの男主人が、何やら
シグリーズは一体何をそんなに慌てているのかと思ったが。
すでにリラックスモードに入っている彼女は、我関せずといった様子でベットで
ようやく食事が取れる。
節約のため、昼食を抜いていたのもあって、ともかく今はなんでもいいから食べたい。
シグリーズとアルヴはそう思って待っていたが、いつまで経っても食事が運ばれて来なかった。
部屋に入ってからすでに三十分以上は経過している。
この宿は
文句を言う気力もないアルブを見ながら、早く料理が来ないかなとシグリーズが思っていると、突然部屋のドアが開いた。
ノックもせずに失礼だなと彼女はベットから腰を上げると、そこには宿の主人ではなく、逆立てた金色の髪に青い目をした体格の良い男が立っていた。
「えッ? ラース……? うそ……どうしてあなたが……?」
「なにぃぃぃッ!? なんで料理じゃなくてあんたが来るんだよ!?」
シグリーズたちの部屋にやって来たのは――。
このデュランフォード国の王であり、彼女を傭兵として
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