第72話 思ったことが聞かれる

「頭がごちゃごちゃするよぉ」


 ま、まさか心の声が逆転して!?


「逆転ってなに?」


「もしかして俺の心の声が聞こえてる!?」


「これがそうなのかなぁ?」


 絶対にそうだ! 最初は俺も頭がごちゃごちゃして大変だったもん!


「白雪! 今すぐ消してもらうようにお願いして!」


「ふふふ」


「し、白雪さん……?」


 白雪が不敵な笑みを浮かべている。


「絶対にやだっ!」


「なんでだ!」


「だって、これがてる君の心の声なんでしょう?」


「た、多分だけど……」


「じゃあ、もっと心の声が聞きたい!」


「アホぉおお! そんなこと言っている場合かっ!」


 バカタレ! 心の声が聞こえるって大変なんだぞ!


 俺は白雪の全部が好きだから受け止められるけど、逆になったら嫌われちゃうかも――。


「ふひひひ」


「あっ」


 聞こえている! その反応は絶対に俺の心の声が聞こえている!


てる君の言っていること本当だったんだね」


「ご、ごめん……」


「いつから?」


「四月の中旬くらいだったかな……。テロリスト先輩が最初にお前に告白していた頃だったと思う」


 思えば心の声が聞こえるようになってから、色々始まったような気がする。


 白雪の心の声が聞こえるから、自分の思ったことをちゃんと言うようにした。そしたら白雪と距離を縮めることができた。


 素直じゃない白雪も、毒を吐く白雪もみんなみんな大好きになった。


 外も中身も大好きになって――。


「ふふーん、そんなに私のことが好きなんだ」


「ぎゃああああ! 全部聞こえてる!」


「ふふふ、確かにこれは信じて貰えないよね」


 白雪が楽しそうに笑っている。


 ま、まさかこうなるとは全然予想していなかったよ!


「し、白雪は一体なにお願いしたの?」


てる君の思っていることが知りたいなって!」


「アホ! とっくに思ったこと全部言ってるわ!」


「うん、それがよーく分かった!」


 ま、まずい……これは非常に良くないことが起きているぞ……。


「私に思ったことが聞かれてなにがまずいのかな~」


「勝手に人の心と会話しないでもらえる!?」


 まずいのはまずいだろ!


 思ったことは全部白雪に言ってきたけど、それでも言えないことはあった。


 例えばエロいこととか――。


「にやにや」


「あっ」


 これ、俺が圧倒的不利じゃないか!? 思考なんて反射的に考えちゃうじゃん!


 しかも今回はのがお互いに知られている!


「エロいことってなーに?」


「そこに触れないのが優しさだとは思わないの!?」


 エロいことはエロいことだろ!


 もう一回一緒にお風呂入りたいとか、もう一回おっぱいを触りたいとか!


 なんなら白雪の体中、全部触ってみたいわッ!


 キスだってもっとしたいし、もちろんその先だって……!


「て、てる君、エッチ過ぎない……?」


「勝手に聞いて照れないでもらえる!?」


「て、照れてないしー!」


 そう言いながらも白雪の顔が真っ赤になっている。可愛い。


「可愛い!?」


「あぁああああ! なんで全部聞こえてるんだよ! 俺のときは所々だったのに!」


 白雪に嫌われたくない。


 当たり前だけど、俺って全部が全部綺麗なことを思っているわけじゃない。


 母さんに怒られればどんな小さなことでもムッとするし、学校で白雪のことを見てくる連中には「俺の彼女見てんじゃねーよ」って嫉妬したりもしている。


 そんなみみっちいところを白雪に知られたくない……。


「えへへへ」


「あ゛ぁああああああ! その顔は聞こえている!」


「そんなこと思ってくれてたんだ」


 白雪が俺に抱きついてきた。


「な、なんだよ! いきなり!」


「そんなんじゃ嫌いにならないから大丈夫だよ!」


「じゃ、じゃあ今すぐ心の声を消してもらって!」


「やだっ!」


「この分からず屋!」


 くっそう! 全力で今の状況を楽しんでやがる。


 それにそんなにくっかれると胸が……。


「ふぇ!?」


 白雪が俺から少し体を離した。


「……」


「……」


「……」


「えっち」


「うわぁあああああああん!」


 鬼に金棒、虎に翼、ギャルに自撮り棒、白雪に心の声!


 白雪が最強の武器を手に入れてしまった!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る