第71話 心の声(逆)

 放課後!


 俺は二人を無理矢理あの神社に連れてきた。


「なんか今日の遠藤おかしくない?」

(私、昨日フラれてるんですけど)


てる君、たまにおかしくなるから」

(なにがしたいのかさっぱり)


 二人で人のことディスってきやがって……!


 でも、こうでもしないと一生心の声に悩まれることになってしまう。


「だから、本当に心の声が聞こえてくるの!」


「妄想?」


「信じなくてもいいから! でも、消してくれってだけお願いして! あと、ちゃんと今まで言えなかったことを謝りたい!」


 朝陽がめんどくさそうに俺の後をついてくる。


「もしかして妨害工作?」


「妨害工作ってなにさ」


「私の期末勉強、邪魔しようとしてるでしょう!」


「誰がそんなせこい真似するか!」


 うぅ、どうやったら心の声が聞こえているって信じて貰えるんだろう。


 そ、そうだ!


「じゃあ、朝陽! 心の中でなにか考えてみてよ!」


「本気で言ってるの?」


「うん、当てて見せるから!」


 こうなったら実演だ!


 そこまですれば、きっと信じてくれるだろう!


「うーん、じゃあ――」


「……」


「……」


「……」


「……」


 ……全然、聞こえてこない。


 神様なにやってんの。ここは聞こえてこないとダメなところでしょう。


「遠藤?」


「お、お腹空いた?」


「全然違う! 嘘つきじゃん!」


「ち、違うんだって! 聞こえてくるタイミングがあって!」


「はぁ……」


 思いっきりため息をつかれてしまった。


 た、確かに逆の立場ならため息をつきたくなる気持ちも分かる。


「ちなみになに考えたの?」


「遠藤の馬鹿って」


「おい」


 シンプル悪口じゃねーか。


 あぶねっ、知らなかったらダメージ喰らうところだった。


「まぁまぁ、一応てる君の言うことを聞いてあげようよ朝陽あさひ


「白雪も大変だね」


「確かにてる君は馬鹿だけど、人を傷つける嘘はつかないと思うから」


 白雪の優しさが身に染みるよぉ……。


 でも、なんか普通に変人扱いされているような?


 でも、そうだよなぁ。心の声が聞こえているなんて言われても普通は信じないもん。俺だって、そんなこと言われたらこいつ頭がおかしいんじゃないかなぁと思っちゃうよ。


「よしっ! 着いた! 二人ともお願い!」


「はいはい!」


 そうこうしていたら、お賽銭箱の前に着いた。


 俺は二人に心の声を消してもらうようにお願いするのをお願いした!


「お願いします、お願いします。てる君に心の声がもう聞こえませんように」


「遠藤にもう心が読まれませんように」


 棒読みの二人。でも、一応ちゃんとお願いしてくれている。


 お願いします! 本当にお願いします!


 今度は三人でお願いするんで、もうやめてください!


 俺も二人と一緒に神様に頭を下げた。


 一瞬、あたりがしんっと静まり返る。


 夏を感じさせる生温い風が頬を撫でた。


 遠くからはセミの鳴き声が聞こえてきた。


「……」


「……」


 ちらっと横にいる二人を見ると、なんだかんだで二人ともちゃんとお願いをしてくれているようだ。


 白雪が俺の味方をしてくれたおかげかな。


 朝陽にも昨日の今日で本当に迷惑ばかりかけてしまったな。


「これでいい?」


「あ、ありがとう!」


「今日は遠藤のことがさっぱり分からない」


 ……。


 朝陽の心の声は聞こえてこない……。


 で、でも油断はできないぞ! どうせ後出しで――。


「ふぇ!?」


 白雪が変な声を出した。


「どうしたの?」


「い、いや……」


 白雪がどこか戸惑った顔をしている。


「んじゃ、そこのバカップル。私は帰るからね」


「う、うん。また明日!」


「はいはーい」


 朝陽はそのままこの場から立ち去った。


 あいつ本当に良い奴だなぁ……。


 俺がもし振られた方だったら、あんな風に普通に接することはできなかったかも。


 ……多分、朝陽はもう俺のことを呼んでくれないだろうな。それにちょっとだけ寂しはあるかも。


「はぁ!?」


 白雪が素っ頓狂な声を出した。


「な、なんだよ、さっきから……」


「い、いや……」


 さっきから白雪の様子がおかしい。


 もしかしたら、連日の勉強で疲れているのかな? 


 だったら早く帰って休まないと。


「つ、疲れてはないけど……」


「そう? ごめんね、付き合わせて」


「う、ううん……」


 とりあえず今できることはやった!


 後は、タイミングを見て白雪に心の声が聞こえていたことをちゃんと謝ろう。誠心誠意、心を込めて謝ろう。これの一番の被害者は白雪なのかもしれないのだから……。


「へ?」


「さ、さっきから変な声を出してどうしたんだよ」


「わ、私、ちょっとおかしいみたい……」


「白雪がおかしいのは前から――」


「う、うっさい!」


 白雪が自分の頭を抱えてしゃがみこんでしまった。


「白雪?」


 ほ、本当にどうしちゃったんだ。


 とっても心配になってきた……!


「白雪、うちに帰って休も? 今日もうちに来るでしょう?」


「し、心配してくれてるの?」


「そりゃ、もちろんだよ」


「そ、そっか」


「?」


 白雪の手を引っ張る。


 ……たまには俺から手を繋いでもいいかな? 白雪に元気出してほしいな。


「ち、違うの! 元気ないわけじゃないの!」


「そうなの?」


「で、でも! 手は繋ぎたい!」


「うん。……んんっ!?」


 違和感に気がついた。


 俺、そんなこと声に出していな――。


「し、白雪、もしかして……?」


「お、おかしいな、さっきからてる君の声がダブって聞こえてくる……」


「どえぇえええええ!?」

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