第73話 輝明君の懺悔室! 1

 とりあえず俺たちは神社からうちに帰ることにした。


 白雪の説得は不可能だと判断!


 ずっと心の声が聞こえていたのが言えなかった手前、無理に消してくれとお願いすることもできない。


 これは罰だ。優柔不断な俺への罰に違いない。


てるくんって割と真面目だよね」


 リビングで荷物を下ろすと、すぐに白雪にそんなことを言われた。


「もしかして聞こえてる!?」


「全部」


 くそぅ! こうなったら俺のオタク知識をフル活用するしかないっ!


 読心スキルへの対抗の仕方は先人が散々見せてくれたはずだ!


てる君がまたアホなこと考えてる」


「またってなんだ! またって!」


 読心への対抗その一!


 それは先の先を取ること! 真っ直ぐ行ってぶっ飛ばせば、心が読まれていようが関係ない!


「白雪!」


「きゃっ」


 俺は白雪のことを後ろから抱きしめた。


 くくく! 完全に不意打ちを喰らわせてやったぜ!


「それはズルくない!?」


「こうすれば心が読まれていようが関係ないかなって!」


「もー……」


 白雪が観念したように、体の力を抜いた。


 白雪の後ろ髪が俺の鼻をくすぐる。


 ……白雪っていい匂いするよなぁ。甘くてふんわりした匂いっていうか。


 それに白雪の体って細身だけどとても柔らかい。


 母さんはまだ帰ってこないよな……? 


 もうちょっと強く抱きしめてもいいかな? このままずっと抱きしめていたいくらいだ。


「に、匂い嗅がないでよぉ……」


「あ」


 しまった。無意識にまた考えてしまった。


「ずっとこうしてたいの?」


「あぁあああああ!」


 白雪から体を離す!


 いけない、物理的な接触は危険だ。


 一番読まれてはいけない思考が伝わってしまう。


「ぷっ、楽しくなってきた」


「俺は必死なのに!」


 白雪が悪戯小僧みたいな顔になっている。


 ちくしょう、次なる一手を考えないと。


 あとは読心に対する対抗策ってなにかあったけ?


「なにがくるかな、なにがくるかな♪」


 白雪め……!


 今に見ていろ、絶対に一泡ひとあわをふかせてやる。


「ぶくぶくぶく~」


「言葉で泡吹くな!」


 からかいやがって! 完全におちょくってやがる。


 ……そうだ! アレがあったぞ!


 読心への対抗その二! 相手の思考を自分の思考でパンクさせるがあった!


「なにそれ?」


「今、実践するから!」


 白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ白雪が好きだ。


「ありがと」


「全然効いてない……」


 おかしいなぁ……。


 大体、これやると相手の頭がプシューって爆発したりするんだけど。


「私はてる君が好き私はてる君が好き私はてる君が好き」


「恥ずかしいからやめてぇ!」


 白雪に逆襲された。いや、逆襲の白雪だ。


 これ実際に言葉にされるほうが何倍も効くやつだ。


「えへへ、てる君が私のこと好きな気持ちはいっぱい伝わってきてるよ」


「そりゃあ……」


「じゃあ私の気持ちも沢山伝わってたってことだよね?」


「そりゃあ……」


「同じことしか言わなくなった」


 読心への対抗その三を実行中。


 我、今は無なり。自分の心を閉ざせば心の声は聞こえないはず……。


「聞こえてるよ?」


「だろうなッ! そんな超人みたいなことできるわけないわ!」


てる君はいちいち面白いなぁ」


「他人事だと思って……」


「他人事だとは思ってないよ」


「本当かぁ~?」


「本当だよ、これは私たちの問題よね」


 白雪がとてもいい顔で俺のことを見つめている。


 そう思っているなら早く心の声を消してくれ。


「それとこれとは話が別!」


「言うと思った……」


「だって、てる君はずっと私の心の声を聞いてたんでしょ?」


「う、うん……」


「じゃあ、これはその罰ゲーム!」


「罰ゲーム!?」


「私だって聞かれたくない声はあったかもしれないじゃん」


「例えば?」


「……」


 なにかを思い出して、白雪の顔がかーっと赤く染まっていく。


 聞かれたくない声ってなんだろ?


 毒を吐くのいつも通りだし、実は根が素直なところも知っている。


 あっ――。


「そ、それ以上は考えなくていいからね!」


「わ、分かったよ」


 そう言えば白雪、俺の部屋でムラムラしているときあったな。


 海に家出したときだってラブホに泊まることに乗り気だった!


 大体、この前お風呂に誘ってきたのも白雪だ!


 俺のことエッチだエッチだ言うけど、白雪も相当エッチじゃない!?


「あ゛ぁああああああ!」


 白雪が爆発した。


 そうだ! この方法があった! 逆に相手の心を乱す作戦!


「どこまで! どこまで聞いてたの!?」


「いや、俺のときは全部が全部聞こえていたわけじゃないから……」


「じゃあなんで私がてる君の部屋でエッチな気分になってたの知ってるの!?」


「二階から声が貫通してきたから」


「あぁあああああ!」


 白雪が見たこともないくらい恥ずかしそうにしている。


 なんだよ今更、俺たちもっとエッチなことしてるじゃん。


「エッチ、エッチって心の中で思わないでよ!」


「白雪はエッチ」


「直接、声に出すのも禁止!」


 白雪の目がどんどん吊り上がっていく。


てる君! そこに座りなさい!」


「なんで?」


「懺悔室を開くから!」


「はぁああああ!?」

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