第69話 本当は聞こえちゃダメなやつ!

 いつものソファーでぼーっと映画を見ていたら、風呂上がりの白雪がやってきた。


てる君、隣いい?」


「いつもは聞かなくても来るくせに!」


「だって、落ち込んでいるみたいだから」


「ごめん、ちょっとメンタルブレイク中」


 白雪がもぞもぞと俺が掛けていた毛布にもぐりこんでくる。


 白雪はどうやら今日もうちに泊る気らしい。


 最近はもう二日に一回くらいの割合で泊ってないかなぁ。


「……私じゃダメだった?」

(うぅ、私って悪い子だなぁ……。ちょっと朝陽に嫉妬しちゃってる)


「むしろお前じゃなきゃダメだから」


「じゃあ、そんなに落ち込まないで?」

(もっと私だけを見ていてほしい)


 しまった。白雪まで不安にさせてしまっている。


 初めて誰かを振って、気持ちが下向いてしまっていた。


「俺、白雪のこと大好――」



(朝陽、思ったよりもガチだったのかなぁ……)


(明日、自分から朝陽に声をかけてみようかな。ちょっと言い過ぎちゃったてたかも)


(それにしても、なんて言って朝陽のこと振ったんだろう? それを聞くのはさすがにまずいよね……?)


(あんまり踏み込み過ぎると嫌われちゃうかも……)


てる君、朝陽と話しているときはずっと楽しそうだったもんなぁ)


(私とエッチなことしたら元気出してくれるかな……)



 久しぶりの心の声ラッシュがやってきた! ところどころ聞いてはいけないやつがある。


「俺、白雪のこと大好きだから。心配しないで」


「……」


「白雪?」


「ごめん、ちょっと朝陽に嫉妬しちゃってる」


 あっ、心の声と同じことを言っている。


「朝陽、ちゃんとてる君のこと好きだったんだね」


「……」


 正直、散々心の声を聞かされていたので、それは分かっていた。


 分かって――。


「だぁああああ!」


「て、てる君!?」


「今までちゅうぶらりんにしていたけど、やっぱりダメだ!」


 心の声はやっぱり邪魔だぁあああ!


 思ったことを言うことも大切かもしれないけど、思ったことを言わないことも大切だ!。


 だから、それが全部聞こえちゃうのはやっぱりダメだ!


 言語道断、悪逆非道! 絶対に許されることではない!


「宙ぶらりん?」


「白雪! もうちょっと先になっちゃうかもだけど、必ず言うから!」


「ふぇ?」


 もしかしたら嫌われちゃうかもしれない。


 もしかしたら卑怯者だと言われるかもしれない。


 でも、白雪のことを大切に思っているからこそ言わないと!


 ――今まで白雪の心の声が聞こえていたことをちゃんと言わないと。


「か、必ず言うってなにを!?」


「とっても大切なこと!」


「今じゃダメなの?」


「も、もうちょっと時間くれない? 少し勇気がいるから……」


「ふぇえええ……」

(も、もしかしてプロポーズされちゃう!?)


 ……。


 ……。


 なんでそうなる!?


 白雪が全然違うことを期待している。


 やっぱり心の声は本当は聞こえちゃダメなやつだ!


 打倒、心の声! もう二度と聞こえなくなるようにしないと。




※※※




 夜の十二時、家を抜け出して例の神社にやってきた。


 この時間の神社って不気味だよなぁ……。


 昼間とは全然印象が違う。なんか出てきそう。



チャリンチャリン

 


 なけなしの小銭をお賽銭箱に全投入する。


「神様、神様、もう心の声はいらないです。本当にいらないです。もうやめてください」


 実際に声に出して、深くお辞儀をする。


 前は白雪のお願い事と俺のお願い事の結果だったんだよな……?


「……なんで、二回も聞こえるようにしたんですか?」


 なんて意地悪な神様なんだと思った。


 俺があたふたしているの絶対に楽しんでいると思う!


 こんなに性格の悪い神様なんてきっといないよ!


「もう心の声なんて聞きたくないです」


 もう一度深くお辞儀をする。


 大体、心の声が聞こえるってなんだよ! 


 人の恋心や思惑が聞こえてきちゃうなんてやっぱりズルじゃん。


 今日の自分の不甲斐なさもあって、段々イライラしてきちゃったぞ。


「神様、本当に本っっっ当にやめてください」


 手を合せて深く深ーく念じる。


てる君?」

(なにやってるの?)


「げぇ!?」


 後ろから白雪の声×2が聞こえてきた。


「し、白雪!? なんでここに!?」


「浮気の波動を感じたから」

(添い寝しようと思ったら、外に出て行くのが見えたから)


 ダメじゃん。


 普通に心の声が聞こえてるじゃん。

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