第67話 無言の告白

 六月も下旬となり、いよいよ期末テストが近くなってきた。


 期末テストは七月二日から三日間行われる。


 一週間前から部活動等は休止期間になり、運動部の生徒も学生の本業に力をいれる期間となるようだ。


「うーん……」


 そんな日の放課後。


 俺たちは近くにある市民図書館で勉強することになった。


 メンバーは俺と白雪。朝陽と、亮一君、高橋君、広瀬君の六人だ。


 学校の図書館は、期末テスト前で同じ考えの人が大量発生していて、席が取れなかった!


てる君、そこスペル間違ってるよ」


「あっ、ホントだ」


「ケアレスミスはもったいないから注意してね」


「分かってるって」


 ふふん、今回の期末は実は自信あり。


 何故なら、今までと勉強にかけてきた時間が今までと違うから! 


 毎日、毎日、白雪とコツコツ勉強をやっている俺には、今回は付け焼刃一夜漬けなど必要ないのだ!


「遠藤、ちょっと余裕そうなのムカつく」


 ……その様子をあっさり朝陽に見抜かれた。


「中間のときは一緒に朝活しようと言ってたのになぁ」


「うぐっ」


「三日坊主にもなってないじゃんか」


「ぐぬっ」


 ぐさぐさと言葉のナイフにめった刺しにされる。


 つんっと朝陽が唇を尖らせている。


 朝活の話が出てから、すぐに白雪と付き合うようになったので、どうしてもそんな時間が取れなくなってしまった。


「朝陽! 期末テスト、勝負しよう!」


「勝てそうなときばかり挑んできやがって……!」


「なんだよ、逃げるのか!」


「なんだとぉ~」


 朝陽の目に闘志が宿った!


 最近の俺も朝陽とは普通に会話をするようにしている。変に意識しちゃうのもおかしいし、朝陽が行動を起こさないならそのままの関係でいられると思ったからだ。


「五教科の合計点負けたら昼メシな!」


「私に挑んできたことを後悔させてやるからな」


 それが功を奏して、今は前と同じように軽口を言い合えるようになった。色々なことがあったが、やっぱり朝陽とはとても気が合うらしい。


「二人とも私とも勝負する?」


 ラスボスが登場した。


 しまった! 白雪まで勝負をふっかけてきてしまった。


「やめておきます」


「やめておく」


 誰がお前に勝てるかってんだ! 戦いはある程度実力が近くないと面白くないって、とある化け物も言ってたからな!


「お前ら頑張ってるなぁ~」


「いや、二人とも余裕すぎでしょう」


 運動部の二人。バスケ部広瀬君と、野球部高橋君は、とっくに勉強に飽きて漫画を読んでいた。


 どこの図書館も、なんで中途半端に漫画コーナーってあるんだろう。


「遠藤~、カンニングさせてくれ」


「うちのてる君を変なことに巻き込まないで」


「お前は母親かよ」


 白雪のキャラクターチェンジもこのグループ内だと普通に受け入れられている。“白雪姫”やってた頃より、よっぽど雑に扱われているけど。


 一人、黙々と集中して勉強をやっているのが委員長の亮一君。俺たちの会話に一切入ってこようとしてこない。


「っていうか、ぶっちゃけお前たちどこまで進んでんの?」


 彼女持ちの広瀬君があっさり俺たちにそんなことを聞いてきた!


「ど、どこまでって……」


「その感じだとキスはしてるでしょ? っていうか、この前、登校前にしてたって有名になってたし」


「~~~っ!」


 白雪の顔がかーっと赤くなった。


 この前ってテロリスト先輩がやってきたときのことか!


「広瀬! セクハラだよ!」


 何故か朝陽の顔も赤くなっている。


「広瀬、彼女さん迎えに来てるぞ」


「あっ、ホントだ」


 高橋君が図書館の入り口を指差した。ショートカットで小柄な女の子がこちらに手を振っている。


「よし、俺、帰るから」


 広瀬君がゆっくりと立ち上がって、その女の子のほうに向かっていった。二人ともとても楽しそうに笑い合っている。


「広瀬君の彼女、初めて見た」


「私も」


 白雪も興味深そうに広瀬君のことを見送っていた。


「ここにはリア充しかいないのか……」


 た、高橋君が血の涙を流し始めた。


「広瀬の彼女、同じバスケ部なんだってさ」


「あっ、確かに言われてみるとバスケ部っぽい!」


 せ、青春だー! 同じ部活の恋愛って憧れちゃうよなぁ!


「はぁ、俺も帰って素振りでもしようかな」


「や、野球部にそういう子はいないの?」


「いるわけないだろ! マネージャーも男だし!」


「oh……」


 高橋君に怒られた。ほんのちょっぴり悔しそうな笑みを浮かべて、高橋君も図書館から去ってしまった。


「いや、あいつらの集合した意味よ」


 近藤さんがごもっともなこと言ってる。結局、真面目にやっているのは後ろの席にいる亮一君だけだ。俺たちもおしゃべりが多くなっちゃっているし。


「あっ! お母さんから電話かかってきちゃった! ちょっと出てくるね!」


「おっけー」


 図書館の中では電話できないので、白雪が早歩きで外に出ていった。


「……」


「……」


 朝陽と二人きりになってしまった。



(もしかしてチャンス……?)



 ――心の声が聞こえてきてしまった。


 朝陽の緊張が俺にも伝わってくる。


 このタイミングで……? つい体中に力が入ってしまった。


 ん……?


 朝陽が、自分のノートになにかを書きなぐっている。


「遠藤、なにも言わなくていいからこのノート見てもらえる?」


「うん?」


 なにをしようとしているか分からず、ただ言われるがままにそのノートに目を通す。



“いきなりでごめんだけど。私、遠藤のこと好きだったかもしれない”



 ノートにはそんなことが書かれていた。

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