第65話 人気者の遠藤君!

 休み明け!


 はぁ、なんでイベント後の月曜日ってこんなにやる気が出ないんだろう。


てる君、もうすぐで期末試験だね」


「だるぅ……」


「勉強頑張るって言ってたくせに」


「頑張るとは言ったけど、それとは別でだるいのはだるい!」


「言いたいことは分からなくもないけど」


「そういう白雪さんは随分余裕そうですなぁ」


「普段からコツコツやってるからね。一夜漬けになんの意味があるんだか」


「やめてくれ、その言葉は俺に効く」


てる君、今回はコツコツやってるから大丈夫じゃない?」


「そうだといいんだけど……」


 白雪が俺に穏やかに微笑む。


 なんだか、今日は朝からとてもいい雰囲気だ。


「ねぇねぇ、学校行くまで手を繋ごうよ」


「恥ずかしいからやだ」


「ケチ」


 この前から俺たち、大分良い感じな気がする!


 恋人同士の触れ合いをすることで、より一層仲が深まったというか!


「白雪さんっ!」


 そんなことを思っていたら、ふと白雪に声をかける人が現れた。


 この声は聞き覚えがあるぞ。


てる君、今日もうち来るよね?」


「う、うん」


 ……が、白雪はその声を完全に無視している。


 いや、もう完全にあの人じゃん。


 白雪もこの態度を取っているということは絶対に気づいている!


「白雪さん! 携帯の番号教えてよ!」


 バスケ部の例の先輩だ! 


 先輩が懲りずに三度目のアタックを仕掛けてきた!


「……」


 あからさまに無視する白雪。


「白雪さん!」


 それでも先輩はくじけない!


 メンタル強いなぁ、この先輩。


 俺なら一回目で既に粉々に砕け散ってるよ。


 声をかけられるたびに、白雪がめちゃくちゃ不快そうな顔を浮べている。


「白雪」


「んっ?」


 俺としても、何度も人の彼女にアプローチされるのは面白くないので、見せつけるように白雪と手を繋ぐことにした。


「え~、繋がないって言ったくせに」


「先輩、失礼します」


 ぺこっと先輩に頭を下げる。


 一応、広瀬君の先輩だから礼儀正しくしておこう。


「で、でも!」


「あー! もうしつこいな!」


 あっ、ついに白雪の堪忍袋の緒が切れた。


「なんなの!? 何度も何度も!」


「彼氏がいるくらいで諦められるかよ!」


「はぁ?」


 うわっ、久しぶりに心の底からの「はぁ?」と聞いてしまった。


てる君、ちょっといい?」


「へ?」


 白雪が、いきなり俺の左頬に手を添えてきた!


「んっ!?」


 先輩のびっくりした声が聞こえてきた。


 そのまま白雪は自分の唇と俺の唇を合せた。


 他の登校している生徒たちも、驚いた様子で俺たちのことを見ている!


「先輩、そういうことなんで」


「なっ……! なっ……!?」


「行こっ、てる君」


 だ、誰がそこまでしろと言った!?


 白雪が完全に先輩の脳を破壊してしまった!


 先輩は唖然としたまま、俺たちの様子を見送っていた。




※※※

 



「よっ! おはよう遠藤!」


「おはよ、広瀬君」


 珍しい~。教室につくとすぐに広瀬君に話しかけられた。


 朝、先輩の件があったからほんのちょっとだけ気まずい。


「今日も一緒に登校か、本当に仲良いなぁ~」


 あっ、高橋君にも声かけられた。


「そ、そう?」


「今日は一限目から数学だってよ、憂鬱なんだけど」


 な、なんだ!? 今日は沢山声をかけられるぞ!


「遠藤、期末近くなったら一緒に勉強しようぜ」


「う、うん」


 な、なななな!? 広瀬君がそんなことを言ってきた!


 委員長の亮一君以外に初めて誘われてしまった。


「白雪、たまに遠藤借りてもいいよな?」


「ダメに決まってるじゃん。私のてる君、取らないで」


「アホか! 男同士で気持ち悪いわ!」


 なんじゃこりゃ。


 すっごく男子の皆がフランクに俺たちに声をかけてきている。


 お、俺たちの友達って朝陽しかいなかったのに!


「お、おはよ、朝陽……」


「なんで朝から動揺してんのよ」


 朝陽に挨拶したら、速攻でツッコまれてしまった。


「いや、みんなに話しかけられるからびっくりしちゃってさ」


「あー、みんな文句言っている人より、頑張っている人のほうが付き合いやすいんじゃない?」


「む?」


 朝陽がチラッと永地ながとちさんたちのほうを見る。


 いつもはみんなで集まってわいわいやっていたのに、今は永地ながとち露本つゆもとさんの二人しかいない。


 なんかこれはこれで嫌だなぁ……。


「遠藤に沢山友達ができたのは美女の応援のおかげだね」


「美女……?」


「私たちが応援したのをもう忘れたのかっ!」


 朝陽も、もうすっかり前みたいに話してくれるようになっている。


 こんな感覚は初めてかもしれない。


 一つが上手くいけば、全部上手くいくようになっているというか……?


「朝陽、人のてる君に慣れ慣れしく話しかけないでよね」


「あんたは小姑か! 独占欲強いのは嫌われれるぞ!」


「ぐぬっ」


「白雪って絶対に束縛するタイプだよね」


「し、知ったような口を聞いて! 朝陽は誰かと付き合ったことあるの!?」


「あぁああああ! それは言うなぁ!」


 こいつら実は仲良しだろ。


 白雪が遠慮しないで話せる数少ない女友達になっている気がする。


「なぁなぁ、みんなで勉強会しない?」


 そんなやり取りをしていたら、亮一君・高橋君・広瀬君の男子三人組が俺たちの会話に混ざってきた。


「白雪って頭良いじゃん、勉強教えてよ」


「えっ、めんどい」


「はっきり言うなぁ」


 白雪に毒を吐かれても、亮一君はそんなに気にしていない。


 大人だなぁ、既に毒耐性をお持ちの人のようだ。


「みんなで図書館とか行けば、なんとなくやるだろ」


「私は別にいいよ。家だとサボっちゃうから」

(これは、自分の気持ちに整理を付けるいい機会か……)


 ふと朝陽の心の声が聞こえてきてしまった。



(……白雪がいるから、いつ言えるか分からないけど、私、遠藤に告白しよう。そうしないと前に進めない気がする)



 ……。


 ……。


 えっ……?


 またしても、心の声にとんでもないネタバレをされた気がする。

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