第64話 幼馴染の彼女! 2

 二度も……! 二度もババキャンをくらうなんて……!


 まさか、この人狙ってやってるんじゃないだろうな!


「レシーブしようとしたら、ぐきっといきそうになってね! ぐきっと」


「……」


 いやいや! この母親に限ってそんなことするわけないか。


 シンプルに間が悪いだけだと思う。それがうちの母親だ。


 うちだとどうも白雪と触れ合うのも限界があるなぁ……。


「白雪、映画見よっか」


「う、うん」


 当初の予定通り、映画パーティーを行うことにする。


 隣にいる白雪がテレビのリモコンを俺に渡してくれた。


てる君、てる君」


「ん?」


 白雪がひっそり俺に耳打ちをしてくる。


「今度、私の家でね」


 若干の悪戯顔を残して、白雪がニコッと微笑む。


 た、確かに白雪の家なら誰もいないか……。


 でもなぁ、おばさんがいない間にそれはどうなのだろうか。


 俺が真面目すぎるだけなのかな。


「あんたら距離近くない?」


「そ、そう!?」


「ま、仕方ないか。幼馴染で恋人同士だもんね」


 母さんが目ざとく俺たちの様子を見ている。


 大雑把なくせに結構細かいところまで見ていやがる。


 それにしても幼馴染だけど恋人かぁ……。


 俺たち、今日だけでかなり恋人としては進展できたのではないだろうか。


てる君、毛布かけていい?」


「寒いの?」


「んーん、なんとなく」


「?」


 白雪が近くに置いておいた毛布を持ってきた。


 ぴっとり寄りそうにように二人で同じ毛布に入る。


 猛吹雪の中、雪小屋に避難して、暖を取るために二人で寄り添っているみたいな形になった。


 風呂上がりなのもあって、正直ちょっと暑い。


「あらあら仲良しさんね~」


 母さんが俺たちをからかうみたいなことを言っている。その母さんは、キッチンにある椅子に座って携帯をいじっている。


てる君、始まるよ」


「おっ」


 毛布の中で白雪が俺の手を握ってきた。


「……お前、これがやりたかったんだろ」


「これならバレないでしょ?」


「手を繋ぐくらいならもう母さん気にしない気がするけどなぁ……」


「私のお母さんに言われたら大変なことになるもん」


「それは確かに……」


 映画を見ながら、小声で二人でそんな会話をする。


 確かに白雪のおばさんなら「もっとわきまえなさい!」とか言いそうだ。


てる君」


 白雪がまた俺に耳打ちをしてきた。


「今度はなに?」


「私、今日はいっぱいエッチな気分になっちゃった」


「ぶっ!」


 思いっきり吹き出してしまった。


 まさかあの白雪がそんなことを言ってくるとは思わなかった。


「お、お前、それは思ったこと言いすぎ!」


てる君に言はわれたくない」


 つんっと白雪が唇を尖らせる。


「お、俺だって……」


「俺だって?」


「もっとエッチなことしたかった」


「きゃー! 私はもっとしたいなんて言ってないのに!」

(私ももっとしたかった)


「ざっけんな! 言ってるようなもんじゃん!」


 まんまとハメられた! 釣られて思ったことを言ってしまった! 


 言ってるようなっていうか心の声で言ってるんだけどさ!


「俺、白雪とこれからも色んなことしたいよ」


 開き直って、思っていることを全部言ってしまう。普段だと恥ずかしくて言えないことも沢山あるし。


「今日みたいに学校の行事も一緒に楽しみたいし、デートにも沢山行きたい」


 ……ん?  今日、体育祭があって疲れていたのかな。


 まったりモードに入ったら急に瞼が重くなってきた……。


「もちろんエッチなこともしたいよ」


「うん、私もだよ」


 白雪が俺の肩に頭をのせてきた。


「そうやってずっと一緒にいれればいいなぁ――」


「あはは、眠くなっている」


「うん」


「じゃあこのまま一緒に寝ちゃおうか」


「うん」


「頑張ったら一緒に寝てあげるって言ったもんね」


「うん……」


 このまま目を閉じてしまおう――。


 テレビは……別にこのままでいっか。


「すぅ……すぅ……」


 白雪の寝息も聞こえてきているような気がする。


 俺もそのまま、まどろみに身を任せてしまおう。


 白雪とずっと一緒にいたい。


 一緒にいたいからこそ、やっぱり心の声は邪魔だなぁ……。


 心の声なんて聞こえなくても、ちゃんと白雪のことを思いやりたい――。


「すぅ……」


「やれやれ、本当に子供のころから仲良しなんだから。離れていた期間があるのが不思議なくらい」


 テレビが消える気配がした。

 

 母さんがそんなことを言いながら、俺たちの毛布を直してくれたような気がした。

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