第63話 幼馴染の彼女! 1

 うーん……。


 今回の心の声って、この前までと聞こえてくる条件が違う気がするんだよなぁ。


 この前は、白雪が素直になれないときとか、俺に不満があるときとかが多かった気がするけど、今は割としょうもない声まで聞こえてきている気がする。


「えへへ」


「また笑ってる」


「幸せだなぁと思って」


「俺も白雪と一緒にいれて幸せだよ」


「本当?」


「うん」


 一人でのんびりするのも好きだけど、こういう二人の穏やかな時間っていいもんだなぁ。なんだかんだで、夜二人きりの時間ってないもんなぁ。


「白雪、ちょっとこっち向いて」


「うん」


 前髪を乾かすため、白雪を正面にした。


 白雪の顔は、“クラスの白雪姫”とは思えないほど口角が上がってゆるゆるになっている。


「綺麗な髪」


「ようやく褒めてくれた~。誰かさんに見てほしくてずっと手入れしてたんだよ」


「そ、その誰かさんとは……?」


「自分で考えろ」


 いきなり突き放された。白雪はこういうことする!


「俺以外の誰かだったらすっごく嫌なんですけど……」


「嫉妬してくれるの?」


「当たり前じゃん」


「ふひひひ」


「笑い方、気持ち悪っ!」


「彼女に向かってなんて口の聞き方を!」


「そんなこと言って気にしてないくせに」


「あはは、てる君の口があんまりよろしくないのは知ってるしね~」


 今、この空間がすごく心地良い。


 幼馴染ならではの気さくさもあるし、恋人同士ならではの甘い会話もある。


 幼馴染の彼女ならではなのかな? 


 もしかしたら俺たちに初々しさは欠けているのかもしれないけど、その分とてもお互いのことを理解し合えている感じがする。


「あっ、くしもやったほうがいいよな」


「やってくれるの?」


「やらせてくれるなら」


「エッチ」


「どこがだ!」


 乾かした白雪の髪をクシでとかしていく。


 どこかで止まることもなく、クシがすいすいと真っ黒な髪を進んでいく。


てる君はエッチでしょ」


「ぐっ……! 否定しないし、できない!」


「ふふーん」


「また笑ってる……」


「私、ちょっとだけ不安だったんだ。幼馴染だから、てる君は私に興奮してくれないんじゃないかって」


「めちゃくちゃ興奮したけど……」


「知ってる」


「そ、それ以上は危ないから言うなよ!」


 俺たち、お互いの裸を見ちゃったんだよなぁ……。


 ついさっきのことなのに全然現実感がないや。


 ……。


 ……。


 いや! 間違いなく手に感触は残っているけどさ!


「はい、完成!」


「ありがと」


 誰かの髪を乾かすのって結構楽しいな。


 白雪も喜んでくれたみたいだ。


「はい! じゃあ今度は私がやってあげる」


「俺、適当でいいよ」


「うっさい、早くドライヤーを渡せ!」


「怖い」


 選手交代にすることになった。


 白雪の位置に、今度は俺が腰をかける。


「うーん、極楽極楽」


 ドライヤーの音が、耳元でうなっている。


てる君の髪、ごわごわしてる。私と全然違う」


「そりゃそうだろ~」


「子供できたらどっちに寄るんだろ」


「ん?」


「え?」


 白雪がさらっと爆弾発言をした。


「お前、不意打ちでそういうこと言うなよ!」


「わ、分かってるよ。つい思ったことがポロっと」


 白雪の俺の髪を乾かす手がほんの少し強くなった。


「きっとてる君に影響されたんだ」


 白雪がドライヤーを止めて、俺の耳元でボソッと呟いた。


「店員さーん、手が止まってますよ」


「もう大体乾いてるじゃん」


 白雪が後ろから俺に抱きついてきた。


「ねぇねぇ、おばさんっていつも何時ごろ帰ってくるの?」


「大体十時ごろかなぁ」


「じゃあ、まだいちゃいちゃできる?」


「うん」


 そう言うと、満足そうな顔をして白雪が俺の隣までやってきた。


「短い美容室だったな……」


「自分で適当でいいって言ったんじゃん」


「だって、髪を撫でられてるの気持ち良かったから」


「私も気持ちよかったよ」


 隣にいる白雪がぐいっと俺の顔を覗き込んできた。


 白雪の頬はまだ赤らんでいる。


 お互いにさっきのお風呂でのぼせちゃっているみたいだ。


 ちょっと見つめ合ってから、どちらからともなく近づいて、また唇が重なり合った。


「ん」


 唇が触れ合うだけの優しいキス。


 もっと白雪と触れ合いたくて、俺は白雪の手を握った。


 お互いに手を動かして、自然と指と指を絡ませ合う形になった。



(き、気持ち良いぃ……)



 何故かこのタイミングで心の声が聞こえてきた!



(私ってキス魔だったのかも。大好きな人とするキスってこんなに気持ち良いんだ……)



 やばいって、このタイミングで心の声は!



(ふぇ!?)



 触れ合っているときにそんな声聞こえてきたら、頭がおかしくなっちゃうよ!


 ……もっと大人のキスがしてみたくなっちゃうよ。


「!?!?」

(し、舌が入ってきたぁ……)


 俺は少し口を開いて、白雪の口内に自分の舌を侵入させた。


 白雪の舌を探すように、ちょろっと自分の舌を動かしてみる。そうすると、白雪の舌も返事するようにちょろっと俺の舌先をつついてきた。


「はぁ……はぁ……」


 白雪の息が荒くなっていく。


 触るだけのキスとは違い、ぬるっとした粘膜の暖かい感じがする。


 白雪の言う通りとても気持ち良い……。


 俺の手を握っている白雪の手がぎゅっと強くなった。



(もっと……! もっとしたいよぉ……!)



 切なげな心の声が聞こえてくる。


 俺は舌先だけではなく更にその奥へ――。



「たっだいまー! 腰が痛くなってきたから帰ってきちゃった!」



 うぐぁああああああ!?


 母さんの元気な声が玄関から聞こえてきた!


「ぷはっ!」


 急いで白雪と唇を離す!


「お土産買ってきたよ……って、あれ? 二人ともなんか怒ってない?」


 母さんが機嫌よくこちらにやってきた。


「怒ってる」


(怒ってます)


 白雪の心の声と言っていることがダブってしまった。

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