第60話 付き合うともっと好きになる 1

 体育祭があっという間に終わった。


 学校の行事でこんなに充実したのは初めてかも。


 あの後、永地ながとちさんと露本つゆもとさんが目立ってなにかを言ってくることはなかった。


 二人に嫌な思いをさせてしまったかもしれないけど、ちゃんと真剣にぶつかって良かったとも思っている。


 ……多分、それが今まで俺に足りないところだったと思うから。


てる君がぼーっとしている」


 夜、リビングのソファーでくつろいでいたら白雪がやってきた。


 白いTシャツにショートパンツとかなりラフな格好だ。


 普通に白雪がうちでゆっくりする気まんまんでいる!


 慣れとは怖いもので、白雪がうちにいることになんの疑問も感じない。むしろいて当たり前の存在になりつつある。


 幼馴染ってすげー……。


 空白期間はあっても、元に戻ったら空気感の修復は一瞬だ。


「疲れたなって思って」


「今日のてる君、カッコよかったよ」


「は、恥ずかしい! 面と向かって言わないで!」


「可愛い。めちゃくちゃ照れてる」


「誰かに褒められるの慣れてないんだって!」


「じゃあ、これからは私が沢山褒めてあげるからね♪」


 白雪が俺の隣に腰を下ろした。


 ふわふわした気持ちになっちゃうなぁ……。


 誰かに認められるのってこんなに嬉しいことなんだ。


輝明てるあきー! 白雪ちゃん! 私、いつものバレー行ってくるからね!」


「はいはーい、ごゆっくりー」


「冷蔵庫にあるのは勝手に食べていいからね!」


 あっ、そういえば今日は金曜日か。母さんがいつものママさんバレーに出かけていった。


「なんか適当に食うかぁ」


「うん!」


「……ところで白雪さん、今日は泊まるつもり?」


「何故バレた」


「まだ七時前なのに、既に外に出る気のない格好になっているから」


 ふふんっ、俺も白雪のことが分かってきた。


 心の声が聞こえなくても、白雪がなにをしようとしているか手に取るように分かる。


「よーしっ! 久しぶりにあれやろうかな!」


「あれ?」


「映画パーティー!」


「あー、お菓子持ってテレビの前から動かない引きこもりみたいなやつね」


「言い方」


 キッチンから大量の食料と飲み物をリビングに持っていく。


 布団を持ってきて、映画を見れる準備をして――。


てるくーん、私のこと忘れてませんかー?」


「えっ、白雪も一緒にやるでしょう?」


「えっ?」


「俺、当然白雪も一緒にやるものだと……」


「当たり前じゃん!」


 一瞬、白雪がびっくりした顔を見せた。


 うーん、よく分からない。


 そう言えば、今日はあんまり心の声が聞こえてこなかったような気がする。気のせいかな?


「あっ、その前にお風呂入ってこようかな」


「そうだね、私も入りたいと思ってた」


「体育祭やった後だもんな、先にお風呂入っちゃおう! いつ寝落ちしてもいいように!」


 我ながら完璧なプランだ! 今日は鬼の居ぬ間に楽園を作ってやる!


「……」


「白雪?」


「……」


「な、なんだよ、急に黙りこくって……」


 白雪の顔がみるみるうちに紅潮していく。なにかを言いづらそうにして、俺から視線をそらしてしまった。


「……今日はおばさん、しばらく帰ってこないんだよね?」


「だと思うけど」


「じゃあ、一緒にお風呂入る……?」


「はぇ?」


 思わぬ提案に変な声が出てしまった。


 前言撤回! 


 やっぱり、白雪がなにをしようとしているかは分からないよ!

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