第59話 輝明の戦い!
「
「遠藤がんば!」
リレーの時間がやってきた!
観客席からは白雪と朝陽の声が聞こえてくる!
クラスの人気者が応援すればその人も一目置かれるはず! とは朝陽案。
白雪は元より、朝陽も友人が多いので、ものすごくみんなに注目されてしまっている。
め、めちゃくちゃ恥ずかしい……。
朝陽も自分が人気あることに自覚があったのが微妙に鼻につく!
「ふぅ」
胸をバクバクさせながら、第二走者のスタート位置についた。
第一走者が高橋君、第二走者は俺、第三走者は広瀬君だ。
「遠藤君……だっけ? 応援すごいね」
「どうもです……」
ほら、見ろ! 名前も知らない隣のクラスの人に声をかけられてしまった。
「遠藤ー! 用意しとけよー!」
反対側にいる高橋君から大きな声が聞こえてきた。
「分かってるー!」
俺、別に人気者になりたいわけじゃないんだけどなぁ……。
ただ俺と付き合ったことで、白雪が変に言われないくらいに頑張れればいいなぁと思っていただけだったのに。
迷軍師 近藤朝陽。
なーんか、やっていることがちょっとズレているような気がする。
「よし……!」
でも、応援されていることは純粋に嬉しい。
俺って自分で思っているよりも単純なのかも!
彼女と友達に応援されたら、そりゃ頑張らなきゃと思うよ!
「それでは、体育祭の最後の競技。一年生の男子リレーを始めます」
拡声器から、そんなアナウンスが校庭に鳴り響いた。
「第一走者は前に」
リレーは第一走者とアンカーが重要なポジションらしい。その大役を背負った高橋君が真剣な表情が変わった!
「それでは――」
……それにしても、学校のイベントでこんなに真剣になるのって何年ぶりだろか。
緊張するほど、なにかを頑張らないといけないって思ったのいつぶりだろうか。
「いちについて――」
空砲を持った先生の手が空にあがった。
「よーい――」
真っ青な空にパァンと大きく音が鳴り響いた!
「ドンッ!」
同時に第一走者が一斉に走り出す!
さすが、第一走者は強豪ぞろい!
みんな早くて、ほとんど差がついていない!
高橋君も必死に地面を蹴っている。
「遠藤、頼んだぞー!」
「うん!」
すぐに俺の番が回ってきた!
全員、ほぼ差がついていない中、高橋君の左手から俺の右手へバトンが渡った。
「……っ!!」
全力で足を動かす、地面を蹴る。
半身前には、長身の男子が走っている。
どうにか一位で広瀬君にバトンを渡したい!
俺だってちょっとはできるんだぞってところを誰かに見せたい! 白雪にカッコいいところを見せたい!
これは俺の傲慢でしかないけど……誰かに自分の頑張っているところを見てもらいたいっ!
「ぁあああ!」
もうちょっとで追いつきそうなのに、中々追い付かない!
無我夢中で走っていると、すぐに次の走者の広瀬君の姿が見えてしまった。
もう少しで終わってしまう……!
もうちょっと……!
もうちょっとなのに!
「あぁああああ!」
転びそうになるくらい、体を前に倒す!
「広瀬君っ!」
「ナイス遠藤!」
なんとか広瀬君の手に上手くバトンを渡した。
「はぁ……はぁ……」
広瀬君が綺麗なフォームで目の前を走り抜けていった。
「ぜぇ……ぜぇ……」
肺が空気を欲しがっている。息をするのを忘れていた。
本当に一瞬で終わってしまった。
順位は……一体何位だったんだろう……。
「広瀬君……!」
祈るような気持ちで広瀬君の姿を追う。
――うちのクラスは一番先頭を走っていた。
「はぁ……はぁ……」
あれ? おかしいな。
別になにかをやり遂げたわけではない。
大したことをしたわけではないのに、目から汗が……。
「遠藤! ナイスラン!」
高橋君が俺の肩を組んできた。
「やるじゃん! 運動部に入ればいいのに!」
「い、いや……」
……白雪は俺の弱いところなんて気にしてない。
白雪は俺の弱いところを含めて全部好きだって言ってくれている。
でも、ずっと悔しかった。
俺と、付き合ったことで白雪の友達が少なくなっていくのがずっと悔しかった。
「どぇえええ!? 遠藤、泣いてる!?」
「な、泣いてないって!」
あー! もうよく分からん!
自分でも今の自分の気持ちが全然分からん!
「遠藤ー! ナイスバトン!」
「ひ、広瀬君も……」
広瀬君も走り終わったら、すぐに俺のところにやってきてくれた。
「広瀬、遠藤が何故か泣いてる」
高橋君が笑いながら、俺のことを指差した。
「だから泣いてないって!」
く、くそぅ……。
なんか、ずっと俺ってカッコ悪いな……。
※※※
「てーる君♪ お疲れ様!」
「白雪……」
リレーが終わり、観客席に戻るとすぐに白雪が俺のところにやってきた。
「カッコ良かったよ! うちのクラス一位じゃん!」
「うん」
「あれ? 元気がない?」
「なんだろう……自分でもよく分かんない。自分が体育祭に貢献できたかよく分からないし……」
「そう?」
白雪が、自分の後ろにいるなにかを見せるようにすっと俺の横に動いた。
「遠藤、お疲れー!」
「男子リレー良かったよ! うちのクラスめちゃくちゃ早かったじゃん!」
「多分、総合でも一位じゃない?」
「最後の亮一が一番危なくなかった?」
「遠藤君の一位がでかかったよね!」
「コソ練してたってマジ?」
白雪の後ろからは、クラスメイト達の歓声が聞こえてきた。
陰キャ歴が長くてよく分からないことになっている!
「美女の応援のおかげだね!」
「あ、朝陽まで……」
みんなが笑顔で俺のことを出迎えてくれた!
ちょっと前までは斜めに構えていて、クラスメイトのことを全員敵だと思っていたくらいだったのに……。
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