第58話 友達

「は? いきなりなに?」


「頑張っている人を悪く言うのやめろよ! さっきから感じ悪いよ!」


 自分から永地ながとちさんと露本つゆもとさんに話しかけるのも初めてだった。


「別に使えないとか言わなくてもいいじゃん! 友達でしょ!」


「……」


 俺はその場に立ち上がってしまった。


 涙が出そうなくらい頭がカッとなってしまっている。


「な、なに? 勝手に人の話を聞いて」


朝陽あさひがなにしたって言うのさ! 白雪がなにしたって言うのさ!」


「……」


 俺の様子に、永地ながとちさんも、露本つゆもとさんも戸惑った顔をしている。


「情緒不安定きもっ」


「ぐっ……!」


「あんたが私たちから白雪のこと取ったんじゃん!」


「はぁあああ!?」


 永地ながとちさんが負けじと俺に言い返してきた。


「私たちの返してよ! 白雪がいたからいい感じにみんなまとまってたのに!」


「……」


「白雪のあの変わりっぷりはなに!? あんたのせいでしょ!」


「そんなこと俺に言われても……」


「クールな白雪姫とつるんでいたから私たちも一目置かれていたのに……! あれじゃ男子人気は出ても――」


「それは白雪には関係ないじゃん!」


 永地さんの言っていることが全く理解できない! とりあえず、白雪がすごく神格化されているのは分かった。


「まぁまぁ」


 永地さんとやり合っていたら、亮一君が俺たちの間に入ってきた。


「遠藤も永地ながとちもそこまでってことで」


「はぁ!? ふざけんなっ! 遠藤からふっかけてきたんじゃん!」


永地ながとち露本つゆもとも愚痴るのはいいけど、聞こえないところでやれよなぁ。聞いているほうは気分良くないよ」


「うっ……」


 亮一君の一言で、俺たちの周囲だけがしんっと静まり返る。


 友達ってなんだろう……。再び、そんなことを思わずにはいられなかった。


「えへへー! てる君、一位だったよ!」


「いや! 空気っ!」


 白雪が元気よくこちらに帰ってきた!


 仕方がないとはいえ全く空気を読まない! 読めない!


「空気?」


「あっ、いや……」


 さすがの白雪も、重苦しい空気感をすぐに感じ取ったようだ。


「なにかあったの?」


「い、いや……」


「あっ、つばめと凛佳りんかじゃん」


 白雪の言葉に二人とも返事をしない。俺も、なんて言っていいのか分からなくなってしまった。


「あははは、雰囲気わる~」


「し、白雪!?」


「私に文句言うのはかまわないけど、聞こえないところでやってね! てる君、行こっ」


「ちょ、ちょっと、話はまだ……!」


「いいの! いいの! 最近の二人のこと大ッ嫌いだったから!」


「ええっ!?」


 白雪が思いっきり毒を吐き散らかした。


「えー……、なにこれ」


 朝陽も戻ってきてしまった。


「近藤お疲れ!」


「ナイス二番!」


 高橋君と広瀬君が明らかに話を誤魔化そうとしている。


「近藤さん! 遠藤君が、またやらかしました!」


 亮一くんが、多分場を和らげるためおちゃらけている。


「またぁ……?」


 ギロリと朝陽に睨まれた。


 うっ、確かに喧嘩を売る形になったのは俺だけど……。でも、前に思ったことを言ってしまったときみたいに後悔はしていない。


 ああいう話は絶対にそのうち本人の耳に入る。


 じゃあ、俺が悪者になって、防いだほうがいい。


 大切な彼女と友達のことを悪く言われて、頭にこないほうがおかしいよ。


 朝陽が、永地ながとちさんと露本つゆもとさんの様子を見る。


「はぁ……」


 朝陽はなにかを察した様子だ。


「空気重いから、外してもいい?」


「俺もー!」


「俺も飲み物買ってこよう」


「彼女の応援行ってくる」


 こうして、この場は自然解散となってしまった。


 また空気悪くしただけだったかな……。


 とても後味の悪いやり取りにになってしまった。

 



※※※




「そんなこと気にしなくても良かったのに」


 体育館裏のコンクリートの犬走りで、白雪と二人きりで休むことになった。いつもは人が少ない体育館裏だが、今日は体育祭なのでちらほらと人が見える。


 俺はさっきあった出来事を白雪に全部話した。


「むぅ……」


「あっ、もやもやしてる」


「だってさぁ」


てる君、正義感が爆発するときあるよね」


「恥ずかしいから言葉にしないで」


 友達ならさ! 友達ならもっとこう、無条件で付き合ってもいいんじゃないかな!? 損得抜きにさ!


 そんな考えも俺の思い上がりだって分かっているけど、どうも気持ちが釈然としない。


「私、てる君がいてくれればクラスの評価は気にしないよ?」


「そう言ってくれるのは嬉しいけど……」


 白雪の気持ちはとても嬉しい。


 でも、俺としては、白雪からなにかをそぎ落としていくより、なにかを付け加えてあげていく彼氏になりたい。


 まぁ、その結果がこの空気じゃ全然ダメダメなんだけど……。


「まぁ、女子は男子と違って色々あるみたいだからね」


「色々?」


「私は知らないけど」


 つくづく白雪はクラスのそういう事情には興味がないみたいだ。


「俺と付き合ってそうなら、白雪に申し訳――」


「それは言わないー! 私は全然そんなこと思ってないんだから、てる君はそんなこと気に病まないで!」

てる君はアホだなぁ)


 白雪は心の底からそんなことを気にしていない。俺のことだけを思ってくれている。


「でも、そうだなぁ。そこまで思うならリレーを頑張ればいいじゃん!」


「リレー?」


「リレーって体育祭の花形競技でしょ! 頑張っている姿を見れば、みんなの目は変わるかもよ!」


「それは俺も思っていたけど……」


 白雪が優しく笑いながら、俺にそんなことを言ってきた。


「――話は聞かせてもらったわ!」

(今だ声をかけろー!)


 あっ、この心の声は朝陽だ。


「げっ」


「げってなによ、白雪。あんたら最近、反応まで似てきてない?」


「また私たちの邪魔をしにきたのかなぁと」


「そんなわけあるかっ!」


 朝陽が俺たちの目の前にやってきた!


「つばめがイライラだか、落ち込んでいるだかでクラスの雰囲気は最悪! だから逃げてきた!」


「へぇ~」


「あんたらが原因でしょう! ちょっとは気にしろ!」


 朝陽がゆっくりと白雪の横に腰を下ろした。


 いや、お前のことも……って、それは別に言わなくてもいいか。


「話の一部始終は男子三人組から聞いたよ」


「……」


「まぁ、遠藤も馬鹿だなぁと思うけど、私も思うところがあるから協力してあげる」


「協力?」


「遠藤が走るとき、私たちが全力応援してあげるから!」


「はぁ?」


 朝陽がぐっと俺たちにガッツポーズをして見せた。


 「おぉ」っと白雪の目も輝かせたのが分かった。

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