第57話 白雪姫の体育祭 2
白雪がスタートラインにつく!
うちの高校の障害物競走は、最初に平均台渡り、次に網くぐり、最後にパン食い競争と、至って普通なやつだ。あえて変わっているところを言うなら、パン食い競争は全部食べてからゴールをしないとダメらしい。
最初が白雪、二番目のレースに朝陽だ。
そりゃそうだよね、同じクラスが同じ組になるのは考えづらい。どうやって二人は決着をつけるつもりなんだろう?
「それではいちについて! よーい――」
先生が左手を高く掲げた!
「ドンッ!」
空砲が校庭に鳴り響く!
音がすると同時に走者が一斉に走り出した。
「そういえば、白雪って運動神経いいの?」
広瀬君がぽつりとそんなことを聞いてきた。
高校入学してからまだ数か月しか経っていないから、同じ中学でもなければ、まだお互いのことを良く分かっていない。
それこそ、この体育祭がみんながどれくらい運動ができる知れる機会なんだと思う。
そんな意味でも白雪は今日とても注目されていた。
「多分、普通だと思う」
幼馴染の俺からはそうとしか言えなかった。
特に良い印象もないし、悪い印象もない。
でも――。
「白雪、早くない!?」
隣にいる二人が驚いた声をだしている。
確かに思ったよりもめちゃくちゃ早い!
高速で平均台をクリアすると、するすると網をくぐっていく。
「白雪、細いから網は楽勝だなぁ」
「胸、全然ないもんなぁ」
むかっ。
仲良し三人組で白雪の体の話をしている。
男子らしい話といえばそれまでだがすごくムカつく。
白雪は思いっきり着やせをしているだけで、全然そんなことないからな。
そもそも、他の男子にそんな目で白雪が見られていること事態が不快だ。
一人でイライラしていると、白雪がそのまま一位でパン食い競争に辿り着いた。
ひょい
パクッ
可愛らしくジャンプをして、白雪が吊るされたパンを一発で咥えた。
「白雪さん、パン咥えてるのエロくね?」
「確かに」
他のクラスの男子からもそんなが聞こえてきた……。白雪って結構みんなから性的な目で見られてるんだ。
シンプルに嫌だなぁ……。
「白雪、食うのもはえー」
亮一君が感心した声出している。
あの形はあんぱんかな? 白雪が二口で全部平らげて、また走り出した。
全てにおいて一切無駄のない動き!
応援する間もなく、白雪は圧倒的速さでゴールをした。当然一位だ。
白雪が、ゴール地点からこちらに無邪気に手を振っている。
「鈴木白雪って昔は近寄りたがったけど、今は全然だよなぁ」
「逆に前よりも良くない? めちゃくちゃ可愛い」
「彼氏持ちじゃなかったらなぁ。俺、好きになってたかも」
複雑ぅ……。
前はあの表情は俺の前でしか見せなかったのに。幼馴染の俺しか知らなかったのに。
俺って自分で思っているよりも、独占欲強かったのかも……。
白雪の男子人気は前よりも上がっているような気がする。
「では第二レースを始めます! 走者は準備して!」
あっ、すぐに第二レースが始まるみたいだ。
朝陽がスタートラインについている。
「それではいちについて! よーいドンッ!」
先生のかけ声とともに第二レースが始まった。
朝陽も足が速い!
スタート同時に先頭を走っている!
「遠藤って、なんでこの前、近藤のこと怒らせたの?」
「も、もう忘れられているかと思ったよ」
朝陽の姿を見て、男子三人の追求が始まってしまった。
「遠藤と近藤って仲良かったよな? 結構話しているところみたし」
「そう見えた……?」
「うん」
そう言われてもなぁ……。
……。
……。
「俺が余計な事言ったというか……。俺が全面的に悪いよ」
「そっか」
「ほら、俺ってつい余計なことを言っちゃ――」
「いいよ、言いづらそうだからそこはあんまり聞かないでおく。俺もごめん」
亮一君がそう言うと、高橋君も広瀬君も黙ってうんと頷いてくれた。みんな、優しい。
朝陽か……。
もし、白雪に勝ったらどうするつもりなんだろう。負けたらどんなこと思うんだろう。
「……」
ううん、これは良くないな。
心の声が聞こえるのが前提になってしまっている。これは本当に良くない。
「近藤も早い」
「もうパン食いじゃん」
朝陽がパン食いのところに一番乗りで辿り着いている!
ジャンプして、パンを咥えようとしている。
……が、何度ジャンプしてもうまくパンを捕まえることができない。
そうこうしていると、後続が次々とやってきてしまった!
「近藤ー! 頑張れー!」
「後ろきてるぞー!」
クラスメイトの応援にも熱が入ってきた!
中々、パンを捕まえることができない姿がちょっと痛ましい。
「落ち着け近藤ー!」
「頑張れー!」
「朝陽、頑張れー!」
(なにやってんのー! 落ち着いてー!)
みんなの応援の中に、白雪の声も聞こえてきた。
「朝陽ー! がんばー!」
俺も自然と声が出てしまっていた。
「あむっ」
ようやく朝陽がパンを捕らえた!
だが、既に一人がパンを食べ終えようとしている!
朝陽も必死にパンにかぶりつく!
――デッドヒートのすえ、朝陽は二着で競技を終えた。
「二人とも頑張ったな! 暫定一位じゃね? 俺たちのクラス!」
「確かに!」
男子三人で軽くハイタッチをしている。
「ほら! 遠藤も!」
「う、うん!」
亮一君に促されて、俺も三人とハイタッチをした。
こんな気持ち初めてかも!
クラスのみんなでこうしているのがとても楽しい!
(あーあー、負けちゃった)
少し遠くにいるが、朝陽の心の声が聞こえてきた。やっぱり落ち込んでしまっているようだ。
(残念……。朝陽も頑張ったのにね。こんなので落ち込まないで欲しいな)
白雪の声も聞こえてきた。
白雪が朝陽に駆け寄ってなにかを話している。
(ほら、気にしない気にしない!)
白雪が朝陽のことを慰めている!
あの二人がちゃんと友達している……!
その姿に少し感動してしまった。
「朝陽のやつ使えねー……」
「白雪、また調子にのるじゃん」
感動も束の間、近くから女子の声が聞こえてきてしまった。
この声は
……この二人、朝からずっと感じが悪い。
「ちょっと……!」
使えないってなんだよ……! 白雪が調子にのってるってなんだよ!
二人とも一生懸命頑張っているだけじゃん!
俺は頭に血が昇ってしまっていた。
「今の二人に失礼じゃない!? 二人に謝れよ!」
「はぁ!?」
初めて、陰キャの俺が陽キャ集団に立てついてしまった。
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