第56話 白雪姫の体育祭 1
六月の中旬。
白雪との初デートから数日が経ち、体育祭当日がやってきた。
朝陽との関係は、前とは同じとはいかないものの、映画に遊びに行ったおかげでぎくしゃくした感じはなくなってきた。
白雪も朝陽とは、遠慮なく? 話せるようになったみたいだ。
「今日は絶対負けないからね、朝陽」
「私だって」
朝、教室で体育祭の準備をしていると、白い体操服に着替えた二人の会話が聞こえてきた。
だからそこで争ってどうする!? クラス対抗だって言っているのに!
「ふぅ……!」
それにしても緊張するなぁ……。さっきから何回も深呼吸をしてしまっている。
リレーに出ると決まってから、かかさず練習はしていたけど、練習をすればするほど本番の緊張の度合いが増していく。
運動部ってすごいなぁ。
毎日毎日、一生懸命練習しているのだから、本番のプレッシャーは俺の感じているものの比ではないだろう。
陽キャが多いから苦手意識があったが、そんな中で頑張っている人たちなので、きっとすごく尊敬できる人たちなんだと思う。
「よーし! 今日は絶対に一番でバトン渡すからな、遠藤!」
そんな運動部の一人、野球部の
高橋君は、白雪姫を取り囲むクラスカースト最上位七人のうちの一人だった。
……一番最初にクラスでカラオケに行ったときも同じ部屋だったかな。
同じ部屋にいたはずなのだが、ちゃんと話すのは今日が初めてだ。
高橋君はどちらかというと寡黙で、いつも一歩引いてみんなのことを見待っているイメージがある。漫才で言うなら、ボケというよりはツッコミ側だ。
その高橋君が今日はえらい張り切っている。
「うん、頑張るよ」
「まぁ、結果は置いといて楽しくやろうよ! 個人的には遠藤がコケるのに期待してる」
亮一君が額に鉢巻を巻きながら、俺たちの会話に混ざってきた!
「そんなことしたらまた遠藤が伝説を残してしまう」
「またってなにさ! またって!」
多分、二人とも俺の緊張をほぐしてくれようとしてくれてるんだと思う。
やっぱり陽キャは性格が良い!
そんなクラスメイトたちのおかげで、最近は陽キャに対して抵抗がなくなってきた。
……それでも少し思うこともあったりもする。
「頑張ろうね、
「体育祭だるぅ……」
女子のほうの陽キャグループの
「朝陽、こっちに来なよ!」
「えっ、なんでよ」
「いいから!」
……男子とは違い、女子のほうは白雪と折り合いが良くないらしい。
白雪姫を取り囲む七人のグループはいつの間にか空中分解してしまったらしい。
「うちのクラスの女子ってめんどくさいよな」
「同感」
亮一君と高橋君のそんな会話が聞こえてきてしまった。
あんまりいい言葉ではないと思うが、正直、俺も同感だった。
「可哀相だから白雪はこっちのグループに混ぜるか! なっ、遠藤!」
「もー、分かってて言ってるでしょう」
「俺さ、この前、白雪が指輪をしているのを見かけちゃったんだけど」
「なぬっ!?」
「その反応はやっぱり遠藤か!」
亮一君にからかわれた。後ろで高橋君も笑っている。
「白雪! こっちに来いよ!」
「えっ、なんでよ」
「遠藤がいるから」
「行く!」
たっはー……。
白雪って良くも悪くも家と学校の態度が変わらないんだよなぁ……。前はかなり猫を被っていたのに。
変わらないことに変わったとでも言うのかな……。
白雪が学校でも素を出すようになった。
そんな白雪の変化はクラスにも大きな影響を及ぼしていた。
白雪を中心にまとまっていたクラスが、そうでなくなってしまった。特に女子連中は白雪と距離を取るようになってしまった。
白雪自身は全く気にしていないが、俺はそのことをとても気にしていた。
「白雪って、遠藤のどこが好きなの?」
「全部だけど? ダメなところも含めて」
「普通に
「そっちから聞いてきたんじゃん」
さすが、亮一君は白雪と普通に会話をしてくれている。
……ちょっとは良いところを見せたいな。
俺は白雪だけではなく、クラスのみんなに対してもそう思っていた。
※※※
体操服に着替えて校庭に出る。
校庭は、こんなに学校に人がいたんだってくらい、生徒たちでごった返していた。
校庭の端々には黄ばんだ簡易テントが設置されていて、先生と委員会の人たちがとても忙しそうにしている。
「
「そうみたいだね」
「朝陽に勝ったらご褒美頂戴ね」
「ご褒美!?」
「
「……ちなみになにくれるの?」
「一緒に寝てあげるから!」
「えっ!?」
「じゃあそろそろ行ってくるね!」
「う、うん!」
気になることを言って、白雪が校庭の中央に向かっていった。
きゅ、急にドキッとするなぁ。
俺は、応援するためにクラスごとに設けられた観客席に腰を下ろすことにした。
「わっ、いきなり鈴木白雪だ」
「白雪さん、更に可愛くなってね? いや前も十分可愛かったんだけどさ」
「分かるー、表情が豊かになったというか」
「この前、彼氏と帰っているところ見ちゃった。噂ってマジだったんだなって」
白雪が競技に向かうだけで、色んなところから噂話が聞こえてくる。
なんだか、ちょっとだけ優越感を感じてしまう。
「……で、遠藤、あの白雪とどうやって付き合ったの?」
「俺もずっと気になってた」
俺の両隣に亮一君と高橋君が座った。
後ろにはバスケ部の
亮一君、高橋君、広瀬君は、クラスの仲良し三人組だ。
「広瀬は年上の彼女いるもんなぁ」
「まぁね」
広瀬君がクールに高橋君に返事をする。
広瀬君は、目鼻立ちが整っていて、俳優さんみたいなルックスをしている。髪もウルフカット? で、モテるオーラをぷんぷん放っている。
「白雪ってうちの先輩をコテンパンに振ったみたいだからなぁ」
「げっ」
そ、そういえば、白雪に告白していた先輩もバスケ部だったな。ということは、広瀬君ってあの先輩の直接の後輩なのか……。
そう考えるとちょっと気まずいかも……。
「先輩、まだ諦めてないみたいでさ」
「はぁあ!?」
ざっけんな! あんだけやられてまだ諦めてないのかよ!
「白雪がこっちに手を振っている」
「あれは俺に手を振っているな」
「バッカ、どっからどう考えても遠藤だろ」
白雪がニコニコしながら、競技場からこちらに手を振っている。
……みんなの視線が俺に集まっている。
「遠藤は答えなくていいの?」
「やりづらいなぁ……」
俺も控えめに白雪に手を振った。
「朝陽! 絶対に白雪に負けるなよ!」
「はいはい」
(めんどくさいなぁ、もう……)
女子のグループからはそんな声が聞こえてきてしまった。
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