第54話 彼女>友達

「全滅エンドじゃねーか! ふざけんな!」


 二時間後、ゾンビ映画が終わりを迎えた。


 二人の心の声がうるさくて、ちーっとも集中できなかった。


 でも、最後に登場人物全員がゾンビに食われるシーンだけはすごく印象に残っている。


 さすがホラー映画だ。後味、最悪だよ。


「そう? 結構、ハラハラしたけど?」

(んーー! 退屈だったなぁ)


 白雪さんが眠そうな顔をしている。


「私は刺激が足りなかったかなぁ」

(アクションシーンはめちゃくちゃ良かったじゃん!)


 朝陽氏が興奮冷めやらぬ顔をしている。


 なんでこの人たちって、思ったことと違うことが口から出てくるんだろう。


「よしっ、じゃあ私は帰るね」


「えっ? 帰るの?」


「デート中でしょう? これ以上、邪魔できるか!」


 映画の感想もそこそこに、朝陽が帰ろうとしていた。


「うっ……」

(ちょ、ちょっと言い過ぎちゃったかなぁ……。明らかに気にしちゃってるじゃん)


 白雪の心の声が聞こえてきた。なにか言いたそうに口をパクパクしているが、うまく言葉が出てこないようだ。


「……」


 俺も気を使わせてしまって悪いことをしたなぁとは思う……。


 思うけど――。


「うん、じゃあまた休み明けに!」


「はいはい」


 朝陽が、手を挙げて、そのまま一人で帰路に着いた。


 ピエロになるとか、二人が仲良しになってもらうとか、色々思ってはいたが、結局、今日の白雪と朝陽の仲はバッドエンドになってしまった。


 ……ごめん朝陽。


 やっぱり俺は白雪優先したいんだ。朝陽から、申し出てくれて正直助かった。


「良かったの? ちょっと可哀想じゃない?」


「そう思うならもっと仲良くしてよ!」


「だ、だってぇ……」

てる君が取られそうで怖いんだもん)


 白雪がもじもじしている。心の声は全部聞こえちゃってるんだけどね。


「……もうちょっと彼氏のこと信頼してよ」


 朝陽には失敗しちゃったけど、白雪には自分の思ったことはちゃんと伝えよう。自分でそう決めたじゃんか。


「うぅ」


「でも、俺の態度も良くなかった。心配させてごめん」


「えっ?」


「俺、友達との距離感って全然分かってなかったかも……」


 今日の出来事でよく分かった。


 俺、友達も大切にしたいけど、やっぱり彼女を一番大切にしたい。


 朝陽が俺のことを悪く思っていないのは、心の声でよく分かったけど、あくまで朝陽は俺のだ……。


 白雪は俺の彼女で、朝陽は俺の友達!


 白雪はラブだけど、朝陽はライク! 


 二人が今日めちゃくちゃ喧嘩しているのを見て、そのことにようやくはっきりと線引きすることができた。


 今まで友達がいなかったから、そこの距離感がイマイチあやふやになってしまっていた……。


 の彼女って難しいなぁ……。


 あれも、これも大切にしたいっていうのは俺の思い上がりだったのかも。


 悔しいけど、今の俺にそんな甲斐性はない!


 だったら、目の前の女の子を大切にしなきゃじゃんか。


「デート、やり直ししようか」


「うんっ! じゃあアニメ見よっ!」


「映画の梯子はしごきっつぅ……」


 それに、映画を見ているときも、白雪はずっと俺のことを考えてくれていた。


 その気持ちはやっぱり嬉しいわけでありまして。




※※※




 映画二本目終了。


 二本目のアニメは無事ハッピーエンドで終わった。


 ……今回は白雪の心の声は全然聞こえてこなかった。なんだろう、やっぱり聞こえてくる条件ってあるのかな。


「うっ、うっ、めっちゃ良い話だった」


「めっちゃ泣いてる」


「やっぱり、物語のしめはハッピーエンドだよね!」


 それにしてもなんて素晴らしい映画だったんだ!


 最後に幼馴染と結ばれるシーンなんてもう涙なしでは見れなかった! 今日はもう、余韻という名のお風呂にずっと浸かっていたい気分だ。


「幼馴染と結ばれるのは鉄板だよなぁ」


「そう? 幼馴染ってめちゃくちゃ負けるイメージない?」


「……例えば?」


「ポッと出の転校生に負けたり」


 さすが白雪、割と詳しい。


「運命的な出会いするヒロインの前には早期敗退するイメージ」


「い、一部ではそうかもだけど、今や幼馴染は強属性だから!」


「そうなの?」


「当たり前だろ! 何年も一緒に過ごしていた幼馴染がポッと出に負けてたまるか! 一目惚れよりも、長い年月をかけて好きになっていくほうが良くない!?」


「……ってことは、てる君は幼馴染が好きなの?」


「当たり前だろ! 幼馴染大好き!」


「ふふーん」


 白雪がにんまりと笑みを浮かべている。


 ……しまった。まんまとハメられた。


てる君は幼馴染好きかぁ」


「くぅ……」


「幼馴染が大好きかぁ」


「ぐぐぐ……!」


てる君は幼馴染のが好きなのかなぁ?」


「白雪だよ!」


「ふぁ!?」


「俺は白雪が好きだから!」


 ふんっ、やられっぱなしだと思うなよ。俺だって成長しているんだ、多分。


「ふ、ふーん……」


 白雪の顔が真っ赤になっている。目線をそらして、髪を指でくるくると巻いている。


 よし、恥ずかしいついでに今日やりたかったことを言ってしまおう。


「朝陽が一緒にいたら諦めるしかないかなぁと思ってたんだけどさ」


「ここで他の女の名前を出すな」


「違う違う! そうじゃなくて、今日は一応俺たちの初デートでしょ?」


「うん」


「じゃあさ、なにか、おそろいの物を買わない? 記念に――」


「私、指輪欲しい!」


「返事早っ!」

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